「BA.1株」に対する抗ウイルス薬の効果などをハムスターで検証
東京大学医科学研究所は6月16日、COVID-19動物モデルのハムスターを用いて、「BA.1株」に対する抗ウイルス薬の効果、および耐性ウイルスが出現するリスクについて検証し、さらに、BA.1株とBA.1.1株に対する抗体薬の効果も検証したと発表した。この研究は、同研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Microbiology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
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2021年末から始まった新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の流行は現在も続いている。2022年6月現在、オミクロン株は少なくとも5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類される。2022年1~3月にかけて国内で流行したオミクロン株の主流はBA.1系統だったが、その後BA.2系統への置き換わりが進み、現在は、BA.2系統が流行の主流となっている。
モルヌピラビルとS-217622のBA.1株に対する効果を確認
研究グループは、まず、BA.1株を感染させたハムスターを用いて、抗ウイルス薬2種類(モルヌピラビル、臨床試験中のS-217622)の効果を検証。その結果、どちらの薬剤も、肺におけるウイルス増殖を大幅に抑制することが判明。また、鼻での増殖もやや抑制することがわかったという。
免疫抑制状態の患者、短期間の投薬ではウイルスを完全に排除できない可能性
ウイルス排除に必要な免疫が十分に誘導されない免疫抑制状態のCOVID-19患者に抗ウイルス剤を使用すると、体内で耐性ウイルスが発生する可能性がある。そこで、耐性ウイルスが出現するリスクについて検証するため、免疫抑制剤「シクロホスファミド」をハムスターに投与し、ウイルスが長期間排除されない動物モデルを作出した。
BA.1株を感染させた野生型ハムスターでは、感染7日後の肺でウイルスがほとんど検出されなかったのに対し、免疫抑制剤投与ハムスターでは、感染7日後の肺で多くのウイルスが検出された。この免疫抑制状態のハムスターにBA.1株を感染させた後、モルヌピラビルまたはS-217622を5日間投与した。投薬終了後2日目(感染7日後)の時点では、モルヌピラビルとS-217622投与群いずれにおいてもコントロール群と比べ、肺でのウイルス量は有意に少ないことが明らかになった。しかし、投薬終了後9日目(感染14日後)の時点では、コントロール群と同程度だった。
これらの結果は、免疫抑制状態の患者にモルヌピラビルまたはS-217622を投与しても、5日間程度の短い投与期間では、体内からウイルスを完全に排除できない可能性があることを示唆している。
2剤とも「多数の変異」を持つウイルスに対しても有効性示す
一方、投薬終了後9日目(感染14日後)にハムスターの肺から分離したウイルスは、モルヌピラビルまたはS-217622に対して高い感受性を示した。このことは、これらの薬剤を投与した免疫抑制状態の患者体内において、耐性ウイルスが出現し、それが優勢になるリスクは低いことを示唆している。
スパイクタンパク質を標的としないモルヌピラビルとS-217622は、オミクロン株のようなスパイクタンパク質に多数の変異を持つウイルスに対して有効であることが示された。今後、新たな変異株が出現しても、これらの薬剤は、その新規変異株感染患者の重症化防止に大きく寄与すると考えられる。
僅かな変異でも抗体薬の効果減弱の可能性、有効性の見極めが重要
また、抗体薬(カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ、あるいはソトロビマブ)の効果についても検証を行った。抗体薬は新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を標的にしている。抗体薬のチキサゲビマブ・シルガビマブは、BA.1株を感染させた野生型ハムスターの肺でのウイルス増殖を抑制したものの、BA.1.1株に対しては、効果が見られなかった。これは、BA.1.1株のもつR346Kの変異がチキサゲビマブ・シルガビマブの効果に影響した可能性があるという。
これらの結果から、例え1アミノ酸の変異(今回のスパイクタンパク質346番目の変異)でも、抗体薬の効果が大きく減弱することがあると判明。今後、新たな変異株が出現した場合、その新規変異株に対して抗体薬が有効であるか否かを見極めることが重要だとしている。
「本研究を通して得られた成果は、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株のリスク評価など行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定、実施する上で重要な情報となる」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース