間質性肺炎の診断には複数診療科の連携が必要、非侵襲的検査での自動診断ニーズがあった
名古屋大学は6月24日、特発性肺線維症に対して、日々の診療で収集している肺のCT画像と診療情報のみから高精度に特発性肺線維症を診断するAIアルゴリズムを開発することに成功したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院メディカルITセンターの古川大記特任助教(理化学研究所光量子工学研究センター画像情報処理チーム客員研究員)、白鳥義宗センター長、名古屋大学未来社会創造機構予防早期医療創成センターの大山慎太郎准教授、理化学研究所光量子工学研究センター画像情報処理チームの横田秀夫チームリーダー(理化学研究所情報統合本部先端データサイエンスプロジェクト副プロジェクトリーダー)、公立陶生病院の近藤康博医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Respirology」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
間質性肺炎は、肺が侵されて呼吸不全に至る進行性肺疾患。中でも特発性肺線維症は診断されてから予後3~5年と予後不良の疾患であるため、特発性肺線維症を早期に診断して治療を開始することが最重要課題である。予後不良な疾患であるが、年々患者数は増えており、国内では約94万人の患者がいると推計されている。
しかし、間質性肺炎は一般の呼吸器科医には診断が困難なことが多いため、間質性肺炎を専門とする呼吸器内科医、放射線科医、病理医が集まって診断する必要がある。一方、現実には、複数の領域の間質性肺炎の専門家が同じ施設にそろっている施設はほとんどない。このため、これまでは正確な診断ができない現状があった。さらに、専門家が話し合っても診断が難しい場合、外科的肺生検によって診断を行うが、侵襲的で危険を伴う。以上から、間質性肺炎に対して通常行われる胸部CT画像検査や血液検査などの非侵襲的な検査のみから特発性肺線維症を自動で診断するニーズがあった。
胸部CT画像+血液検査結果でAI学習、画像上の病変認識精度96.1%
研究グループは今回、間質性肺炎の診療で国際的に有名な公立陶生病院の診療データを用いて特発性肺線維症を高精度に診断する技術を開発することに成功した。65万枚の患者胸部CT画像と、通常行う血液検査の結果を組み合わせて、AI による学習を行った。胸部CT画像上の病変を正しく認識する精度は96.1%と高い値だった。さらに、特発性肺線維症の診断精度は83.6%で、専門家同士の診断一致率と同等の結果だった。
特発性肺線維症は専門家を超える予後予測精度
開発したAIは、AIの診断過程を胸部CT画像で確認することができるため、AIで問題になる「説明可能性」を担保することができ、一般の呼吸器内科医がAIの結果を解釈して協働で診療にあたることが可能になる。実際にAIが特発性肺線維症と診断した患者群は、ハザード比2.6と生命予後が不良だった。また、胸部CTで特発性肺線維症と類似する患者や、診断が困難とされる外科的肺生検を受けた患者でも、診断精度は良好だった。 さらに、国際的にも著名な間質性肺炎の専門医が特発性肺線維症ではないと判断しても、AI が特発性肺線維症と判断した場合は、より死亡率が高いことが判明した。
研究成果を基に、間質性肺炎レジストリ研究開始
以上から、開発した診断AIは特発性肺線維症のスクリーニングツールとして有用であること、さらに間質性肺炎の専門家と協働することでさらなる個別化医療につながる可能性が示唆された。
開発した診断AIを用いることで、非侵襲的検査のみから、特発性肺線維症を正確で迅速に診断することが可能になる。研究成果をもとに、全国の多くの病院が参加する世界最大規模の間質性肺炎レジストリ研究(PROMISE試験)を開始しており、全国どこの病院でも専門家と同等の診断が得られる仕組みを構築している。「多くの患者の早期発見、早期治療に貢献していきたい」と、研究グループは述べている。