CAR-T療法、リンパ球採取の効率化が課題となっていた
京都大学は6月20日、白血病と悪性リンパ腫を標的としたCAR-T細胞療法であるチサゲンレクルユーセル(tisagenlecleucel, tisa-cel)治療を目的にT細胞採取を実施された108症例を対象に、その採取効率に影響する因子を解析し、貧血の存在、血液中のT細胞数と血小板数の値が高いと採取効率を有意に低下させることがわかったと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の城友泰助教、新井康之助教、同大医学研究科の足立壯一教授、髙折晃史教授、長尾美紀教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Transplantation and Cellular Therapy」誌にオンライン掲載されている。
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キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T療法)は、再発・難治B細胞腫瘍に対する良好な治療成績が報告され、国内でも2019年に承認されて以来、全国的に症例数が激増している。CAR-T療法は患者さんからのリンパ球採取、CAR-T細胞製造、リンパ球除去化学療法、CAR-T細胞輸注、CAR-T細胞投与後の合併症対策に至るまで多くのステップを経て初めて治療効果に結び付けることができる治療であるが、各ステップの最適化は十分になされていない。
なかでもリンパ球採取はCAR-T細胞の原料となるT細胞をリンパ球アフェレーシスで得る、CAR-T療法における最初かつ最も重要なステップである。CAR-T細胞療法の適応となる患者は、通常長期にわたり反復した抗がん剤治療を受け血液中のT細胞が減少しているため、十分数のT細胞を採取することが困難な場合が少なくない。また、腫瘍病勢や合併症のため病状が不安定な患者が多いことも特徴である。そのため、限られた機会に確実にT細胞を採取する必要があるが、このリンパ球アフェレーシスにおけるリンパ球の採取効率に関わる因子は十分に解析されていない。今後のCAR-T細胞療法の拡大を見据え、多数症例の解析に基づいた安定した予測モデル作成と効率的な採取戦略の確立が必要となっている。
貧血、末梢血T細胞数、血小板数高値の3因子が採取効率低下に影響
研究グループは、同大学医学部附属病院および兵庫医科大学病院の2施設でチサゲンレクルユーセル治療を目的にリンパ球アフェレーシスが実施された108例を対象に、リンパ球の採取効率に影響する因子を検討した。その結果、研究グループが2021年に少数例の解析を元に報告した、ヘモグロビン低値、末梢血CD3+細胞数、血小板数高値の3つの因子が採取効率を低下させることが改めて確認された。
採取効率予測式と早見表の作成により、患者ごとの最適な血液処理量の設定が可能に
さらに、採取効率の予測式とノモグラムを作成し、必要な血液処理量をコンピューターなしで簡便に算出する早見図を作成した。その結果、「貧血症例における採取前の赤血球輸血の判断」や、「患者ごとの予測採取効率に基づいた最適な血液処理量の設定」が可能となった。この研究結果は、安全なCAR-T療法運用と、CAR-T療法の適応拡大や医療資源の有効利用に役立つ、国内発のリアルワールドデータとなることが期待されるという。「この研究により、多くの患者さんにCAR-T細胞療法をタイムリーに提供することができ、最終的には本疾患の治療成績向上につながることを期待している」と、研究グループは述べている。
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