既存のRFTCは治療範囲が限定され、単独で十分な発作制御を期待することは困難だった
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は6月21日、島弁蓋部てんかんに対する新たな治療法としてラジオ波てんかん焦点温熱凝固術(RFTC)を提案し、この方法を用いた治療経験を報告したと発表した。この研究は、同センター病院脳神経外科の高山裕太郎医師(現・横浜市立大学附属病院脳神経外科)、岩崎真樹部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Operative Neurosurgery」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
島弁蓋部てんかんは、島回および弁蓋部と呼ばれる脳の領域にてんかん焦点を有するてんかん。島回は大脳深部に位置し、周囲の脳領域(前頭葉、側頭葉、頭頂葉)と密接な神経線維連絡を持つ皮質で、神経ネットワークのハブ的役割を果たしていると言われている。そのため、島回てんかんの発作症状は非常に複雑で診断が難しく、治療成績が悪い原因の一つと考えられている。また、島回後上方の近くには運動に関わる神経線維を栄養する血管が走行しており、手術による血管損傷が麻痺の後遺症につながることがある。さらに、島回周囲の弁蓋部は言語機能に関連する重要な脳領域であることが知られており、従来の焦点切除術では、病変部に到達する際に言語機能を損なってしまう危険性があった。
近年、脳を切除せずに、専用のデバイスを用いて標的をピンポイントに治療する定位的手術が、身体的な負担が少ないことから注目されており、特に島弁蓋部てんかんでは有用な治療手段になり得ると考えられている。
てんかんに対するRFTCでは、SEEGを行うために刺入した深部電極を用いて治療を行う「SEEG-guided RFTC」がすでに海外で報告されているが、治療できる範囲は深部電極が留置されている領域に限られてしまうため、この治療単独で十分な発作制御を期待することは難しいとされてきた。今回、研究グループは、より根治性の高いRFTCの実現を目指して、新たな治療法「Volume-based RFTC」を提案した。
てんかん焦点全体の網羅的な治療をコンセプトに、より小さな球体モデルで治療を計画
Volume-based RFTCでは、治療の前に必ずSEEGを行う。SEEGは近年、広く普及している頭蓋内脳波記録の手法だが、島弁蓋部てんかんのようにてんかん焦点が深部に存在する場合や、周囲の構造と複雑なてんかんネットワークを形成している場合に適した検査法であるとされている。SEEGにより、治療すべきてんかん焦点が決定される。Volume-based RFTCでは、このてんかん焦点全体を網羅的に治療することをコンセプトとしており、この点がSEEG-guided RFTCと異なる。
直径2mm、有効長4mmの凝固プローべを使用し、74℃、60秒間の温熱凝固を行うと、直径5mmの凝固病変が形成されることが経験的に知られている。そのため、5mm径の球体モデルを3次元的に組み合わせることで治療を計画する。Volume-based RFTCについて、フランスの一施設から先行報告があるが、同研究の新規性は、先行研究よりもさらに小さなサイズの球体モデルを用いて治療を計画することで、より緻密で柔軟な治療を目指した点にあるという。
Volume-based RFTCで、合併症を残すことなく発作消失を得ることに成功
同研究では、薬物療法のみでは発作が制御できなかった小児の島弁蓋部てんかん患者2人を対象にVolume-based RFTCを行い、合併症を残すことなく発作消失を得ることに成功した。治療後急性期には凝固した病変の周囲に浮腫が生じるが、最終的にこの浮腫は6か月後には消失し、浮腫に伴う永続的な合併症は生じなかった。また、治療から6か月後のMRIでは、深い場所の病変のみが正確に治療されていることが判明した。
5mm凝固病変の周囲に、T1強調画像で低信号となる領域が存在し、この範囲が最終的に治療の効果が及ぶ領域であることが判明。これらの領域の体積を比較することで、計画時の治療標的のうち70~78%の範囲を治療できることが明らかになった。
この結果から、SEEG-guided RFTCと比較して、より網羅的な治療が可能となり、Volume-based RFTCでは標的の70%以上を治療できることが判明した。しかし、プローベを刺入する操作回数が増えることによる血管損傷リスクについては、慎重に考慮すべきだとしている。
従来の開頭手術よりも負担が少なく、島弁蓋部てんかんにも有効な治療選択肢となることに期待
今回新たに提案されたVolume-based RFTCは、従来の開頭手術よりも負担が少ない新たな治療法であり、今まで治療が難しいとされてきた島弁蓋部てんかんに対しても、有効な治療選択肢となることが期待される。
「今後さらに多くの治療経験の蓄積と、より長期にわたる経過観察により、さらに安全で効率的な治療が可能となるよう研究を進める」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立精神・神経医療研究センター(NCNP) トピックス