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肥満や加齢による妊孕性低下、ミトコンドリア機能改善薬でマウス治療成功-広島大ほか

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2022年06月21日 AM10:20

加齢に伴う卵巣線維化の発生機序は?肥満でも卵巣線維化は起こる?

広島大学は6月18日、肥満症に伴う卵巣機能の低下が、加齢に伴う卵巣機能低下と同様に卵巣の間質組織が線維化することによって引き起こされること、そして肥満症・加齢によって生じる卵巣線維化が、ミトコンドリアの機能不全に起因していることを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院統合生命科学研究科の梅原崇助教、島田昌之教授、The University of Adelaide(豪州)のRebecca L. Robker教授などの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肥満症は、全世界で増加しているメタボリックシンドローム(生活習慣病)の一つであり、全身の組織機能低下のみならず、女性の卵巣機能低下や不妊症の大きな一因と言われている。また、近年進む晩婚化に伴って、子どもを希望する女性年齢が上昇している一方で、体外受精を含む高度生殖補助医療においても、40歳代では成績が低下することから、加齢に伴う卵巣機能の低下も社会的な問題となっている。

研究グループでは、2017年に早期に卵巣機能が加齢化するマウスの卵巣が線維化していること、卵巣の脱線維化によって卵巣機能が劇的に改善することを報告。この組織線維化は、腎臓では慢性腎臓病、肝臓では肝硬変といった病態を引き起こす原因であり、近年焦点の当たっている領域だ。組織線維化は肥満症と密接な関係をもち、肝硬変では「脂質が肝臓の肝細胞に過剰蓄積する」「肝細胞が細胞ダメージを受け、炎症を引き起こす」「周囲の細胞がダメージを受ける」「継続した炎症によって、過剰な修復が起こる」「ダメージを受けた部分を中心に過剰に線維質が蓄積する」というステップで、脂肪肝から肝硬変へと移行する。卵巣において脂質は、細胞増殖に重要なエネルギーを産生する栄養基質として焦点が当てられてきたが、卵巣線維化との関連は全く検討されていなかった。また、加齢に伴って卵巣線維化が起こることは明らかとなっていたが、その発生機序は全く明らかとなっていなかった。

肥満マウス、加齢マウスと同様に卵巣へコラーゲン沈着、線維化が進むほど排卵数減

今回、研究グループは、「他の臓器における肥満症と組織線維化の関係をヒントに、加齢に伴う卵巣線維化と同様に肥満症の卵巣でも線維化が生じ、その卵巣構造の変化が卵巣機能を低下させているのではないか」「卵巣の線維化もまた、肥満に伴う炎症によって引き起こされ、その制御によって改善できるのではないか」と仮設を立てた。この仮説を立証するために、過食となり肥満を呈する遺伝子組み換えマウス(Blobbyマウス:以下、肥満マウス)と加齢マウスの卵巣を回収し、組織線維化のマーカーであるコラーゲンの蓄積度合いを、コラーゲンを認識する抗体を用いた免疫蛍光染色によって検討した。

その結果、研究グループの予想通り、肥満マウスでも加齢マウスと同様に卵巣へコラーゲンが沈着していること、そして、線維化が進めば進むほど、卵巣から排卵される卵の数(排卵数)が減少することを見出した。

モデルマウスにピルフェニドン投与で卵巣線維化が改善

肥満症と加齢という異なる要因にも関わらず、「卵巣の線維化」という共通した原因によって卵巣機能が低下していた。このことから、続いて、肥満症と老齢のマウスから卵巣を回収し、これらの比較解析を詳細に行うことで、卵巣線維化の主原因を探索した。その結果、肥満症と加齢に関わらず線維化した卵巣では、卵巣の間質組織に存在する細胞群で脂肪肝のように脂質が過剰に蓄積し、慢性炎症が引き起こされた結果、酸化ストレスが著しく高まっているという肝硬変や肺線維症と似たプロセスが生じていることが明らかとなった。

実際に、肺線維症に使われる抗炎症剤ピルフェニドンを投与したところ、卵巣の線維化も改善した。このことから、この炎症プロセスが卵巣線維化の主要因子であることがわかった。

BGP15によるミトコンドリア機能改善、卵巣脱線維化を引き起こし、卵巣機能を改善

さらに、これら炎症によって卵巣間質組織に存在する細胞群では、ミトコンドリア機能疾患が引き起こされていた。研究グループは、細胞内小器官である小胞体やミトコンドリア機能を改善する薬剤としてBGP15に着眼してきた。そこで、ミトコンドリア機能に着眼し、卵巣線維化におけるミトコンドリアの重要性を明らかにするため、まずミトコンドリア機能を阻害するロテノンの給餌試験を実施。その結果、ロテノン給餌によって、肥満症や加齢と同様に卵巣の間質組織が線維化するとともに、排卵数が減退した。

そこで、卵巣間質のミトコンドリア機能を回復させるため、ミトコンドリア機能を改善するBGP15の飲水を投与。その結果、ミトコンドリア機能が改善し、酸化ストレスが低下するのみならず、卵巣の間質組織で生じていた慢性炎症が抑制された。

これら変化と共に、卵巣の間質組織においてコラーゲンを分解する酵素・コラゲナーゼ(MMP13)が発現上昇することで、線維化卵巣からコラーゲンが除去され、卵巣が脱線維化に向かっていることが明らかとなった。この脱線維化に伴って、卵巣から排卵される卵の数も有意に改善したことから、BGP15によるミトコンドリア機能の改善が卵巣脱線維化を引き起こし、卵巣機能を改善することが明らかとなった。

卵巣組織の線維化はミトコンドリア機能障害に起因、機能改善により卵巣機能回復

今回の研究結果より、肥満症でも加齢と同様に卵巣の間質組織が線維化することで、卵巣機能が低下することが明確化された。さらに、肥満症・加齢に関わらず卵巣組織の線維化がミトコンドリア機能障害に起因し、その機能改善によって、卵巣の脱線維化のみならず、低下した卵巣機能が回復できることが示された。

肥満症や高齢女性において多く認められる卵巣機能低下が、卵巣組織のミトコンドリア機能疾患に伴う卵巣の線維化に起因すること、そしてそれはミトコンドリア機能を改善する抗酸化剤の投与によって改善可能であることが示唆された。これらの成果から、薬理学的な処理で非侵襲的に卵巣線維化を改善する手法を構築することによって、肥満症の女性や高齢女性の不妊治療への応用が期待される、と研究グループは述べている。

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