性別違和の人口割合を知るための適切な調査方法は見つかっていなかった
岡山大学は6月15日、日本における性別違和の人口割合を、性別と年齢分布ごとに調査し、性別違和の人口割合を0.3~1%と、大幅に上方修正したことを発表した。この研究は、同大病院精神科神経科の大島義孝医員と同大学術研究院医歯薬学域精神神経病態学分野の研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Sexual Medicine」にオンライン掲載されている。
これまでの研究のほとんどが、性別違和の人口割合をclinic-basedな方法(専門のクリニック受診者数÷全人口)で求めたものだったが、これではクリニックに行っていない人がカウントされず、実際より低い値になってしまう。
これに対し、近年、population-basedな研究(一般人口のサンプルから対象集団の割合を求める方法)が2つ報告されているが、それらは質問が至って簡素な上に、身体的治療(ホルモン療法や手術)への意向を重視している。しかし、性別違和に悩む人の全てが身体的治療を望むわけではないため、それらも適切な方法とは言えなかった。
日本における性別違和の人口割合、0.31%(狭義)0.96%(広義)と算出
そこで研究グループは今回、population-basedな方法により、性別違和に悩む人々を詳しく把握するため、2段階の調査を実施した。第1段階では、インターネット調査会社に登録された2万人の人々(20~69歳)の性別の自己識別を調べ、トランスジェンダーである可能性のある人々を集めた。第2段階では、それらの人々にユトレヒト性別違和スケールを実施。スコアの合計が41点以上の人を性別違和に該当すると評価し、また、第1段階の結果から、2種類の性別違和(狭義、広義)を定義した。
その結果、日本における性別違和の人口割合は、0.31%(狭義)0.96%(広義)と算出された。狭義の性別違和の年齢調整人口割合は、出生時に男性とされた人の0.27%、出生時に女性とされた人の0.35%と推定された。広義の性別違和では、それぞれ0.87%、1.1%だった。
性別間での有意差はなし、若年層が高年齢層よりも高値
また、従来の研究と異なり、意味のある性別間の差は見出されなかった。他方、どちらの性別においても、若年層の方が高年齢層よりも高い値を示したという。
社会的・法的・制度的状況が、性別違和に影響している実態を反映していない可能性
今回の研究結果は、これまでの通説を覆すものと言える。第1に、性別違和の人口割合を大幅に上方修正し、その中に専門のクリニックを受診しない、あるいは身体的治療を望まない人々が多く含まれる可能性が示された。第2に、トランスジェンダーの人々で性別違和に該当する人は多いとは言えず、性別の自己識別と性別違和とを区別することの必要性が明らかにされた。第3に、参加者の年齢ごとに人口割合が異なっていたことから、小児期・思春期の人ばかりでなく、成人の性別違和も時間と共に変わる可能性が示された。これらの所見は、従来の研究が性別の自己識別、受診状況、身体的治療にとらわれており、社会的・法的・制度的状況が性別違和に影響している実態を反映していない可能性を示唆している。
「医療者、教育者、政策立案者をはじめとする全ての人は、カミングアウトや身体的治療の有無といった、見かけにとらわれず、予想以上に多くの人々が性別違和に悩んでいる可能性を考慮する必要がある」と、研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース