日常生活の中で実践できる軽度認知障害・認知症の予防法が求められている
順天堂大学は6月13日、ビフィズス菌の摂取による軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)患者の認知機能改善および脳萎縮進行の抑制効果を確認したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 ジェロントロジー研究センターの浅岡大介准教授、大草敏史特任教授、佐藤信紘特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Alzheimer’s Disease」オンライン版に掲載されている。
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日本では、現在85歳以上の4人に1人が認知症と言われ、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人の約700万人に急増すると推測されており、社会的な問題となっている。一方、認知症の前段階である軽度認知障害の患者は、現在国内では約400万人いるとされ、世界的には国によって65歳以上の人口の7~42%が軽度認知障害の状態であると推計されている。そして、軽度認知障害患者のうち、年間10~30%の方が認知症に移行するとされている。
軽度認知障害や認知症に対する有効な治療法がない中、発症予防に注目が集まっており、特に、生活習慣の改善など日常生活の中で実践できる有効な対策が求められている。その中でさまざまな全身的な疾患と「腸内フローラの異常(dysbiosis)」との関連が報告され、腸内フローラの制御を介した健康維持への期待が高まっており、2002年には順天堂大学(消化器内科)が中心となって、腸内細菌と中枢神経系との相関関係、いわゆる脳腸相関に関する学会を世界に先駆けて立ち上げた。
軽度認知障害患者を対象に、ビフィズス菌摂取介入のランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施
研究グループは今回、東京都江東区の高齢者医療の拠点である、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターをフィールドとして、軽度認知障害の患者130人を対象とするプラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施し、ビフィズス菌摂取による認知機能、MRI画像診断における脳萎縮度および腸内細菌叢への影響を確認した。
プロバイオティクス試験食品の摂取については、対象者をランダムに2群に分け、ビフィズス菌を200億個含む粉末(スティック)、またはプラセボ粉末(スティック)を1日1スティック、24週間摂取してもらい、認知機能検査(ADAS-Jcog・MMSE)を摂取前、8週間後、16週間後、24週間後の4回実施し、脳萎縮度(頭部MRI:VSRAD)と腸内細菌叢解析(糞便採取)の評価を、摂取前と24週間後の2回実施した。
ビフィズス菌介入群で認知機能改善および脳萎縮進行の抑制を確認
ADAS-Jcog.による認知機能検査では、ビフィズス菌の摂取により、プラセボ摂取群と比較して「見当識」と呼ばれる評価項目が有意に改善されていることが明らかになった。一方、別の認知機能検査(MMSE)では、認知機能が低い(MMSE<25)サブグループにおいて、「時間の見当識」と「文章書字」の項目が、有意に改善していることが示された。
認知障害と関連がある脳萎縮の状態を確認するツールとして、大脳萎縮の評価に有用とされているVBM(voxel-based morphometry)解析手段の中から、同研究では日本で広く使われているプログラム「VSRAD(ブイエスラド)」を用いて脳の萎縮の状態を検証した。
ビフィズス菌の摂取前と摂取24週間後に頭部MRI検査を実施し、脳萎縮の状態を評価した結果、摂取前後の変動値比較では、全脳委縮領域の割合の変動において、脳萎縮の進行度合いに両群間で有意差(P=0.0134)が確認され、プラセボ群に比べ、ビフィズス菌摂取群では、脳萎縮の進行が抑制された。
また、MMSEで認知機能が低い群(MMSE<25)と高い群(MMSE≧25)とでのサブグループ解析を行った結果、認知機能が低い群において、ビフィズス菌の占有率が低いことが確認された。
プロバイオティクス介入による認知機能改善・脳萎縮進行予防の可能性
ビフィズス菌は、加齢とともに著しく減少することが知られている。今回の研究成果により、ビフィズス菌摂取によって軽度認知障害(MCI)患者の認知機能が改善することが確認された。
研究グループは、「今後、腸の環境と脳機能との関連性について、実地医療の視点で、認知機能の低下を招く疾患へのプロバイオティクスの効果や神経疾患と腸内環境の関連性や、プロバイオティクスの作用・効果などについての検証を開始していきたいと考えている。それにより、今まで治療が難しかった領域について、腸内環境ならびに脳と腸との連関に注目することで、新たな光が見えてくる可能性が考えられる」と、述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース