合併症のリスクは胎児の性別や単胎・双胎妊娠によって異なるか?
国立成育医療研究センターは6月14日、周産期データベースを用いて、子宮内の胎児の性別によって妊娠予後がどのように異なるのかを解析したと発表した。この研究は、同センター周産期・母性診療センター産科の小川浩平医長、舟木哲医師(現、慈恵会医科大学産婦人科)らの研究グループによるもの。研究成果のうち、単胎妊娠に関する研究成果は「Scientific Reports」誌に、双胎妊娠に関する研究成果は「Archives of Obstetrics and Gynecology」誌に掲載されている。
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近年周産期に関連するさまざまな疫学研究が欧米を中心として行われており、その中の興味深いもののひとつに子宮内の胎児の性別によって妊婦の妊娠経過が異なるというものがある。しかし、今までの報告では非常に重要な合併症である妊娠高血圧、癒着胎盤、常位胎盤早期剥離のリスクについては明らかになっていない上、双胎妊娠に関する報告は少ないのが現状である。研究グループは、日本産科婦人科学会の周産期データベースを利用して、90万人超の単胎妊娠と3万7千人の双胎妊娠のビッグデータを解析し、子宮内の胎児性別と妊娠予後との関係を詳細に調べた。
ビッグデータにより、頻度の少ない合併症や双胎妊娠におけるリスク解析も可能に
研究対象のうち、単胎妊娠の妊婦は、90万2,513人(男児妊娠46万4,075人、女児妊娠43万8,438人)であった。双胎妊娠の妊婦3万7,953人は、そのうち二絨毛膜二羊膜性双胎妊娠(胎盤が二つ、羊膜が二つの双胎妊娠)では、胎児の組み合わせが男児ー男児が7,816組、男児ー女児が8,535組、女児ー女児が7,453組含まれており、一絨毛膜二羊膜性双胎妊娠(胎盤が一つ、羊膜が二つの双胎妊娠)では、男児ー男児が6,939組、女児ー女児が7,210組含まれていた。すべてにおいて、明らかな胎児異常のない方を抽出し、解析は母体年齢や妊娠方法、妊娠前のBMIや妊娠歴などの交絡因子を調整して行った。このように大きな集団を解析対象とすることで、影響力は弱いが有意な関連を見いだす解析や、頻度の少ない合併症(常位胎盤早期剥離・癒着胎盤など)の解析が可能となったという。
結果として、まず単胎妊娠における胎児の性別ごとの各アウトカムの頻度は、早産、巨大児、常位胎盤早期剥離のリスクは男児が女児と比べて頻度が有意に高くなっており、それぞれの調整オッズ比は1.20、1.83、1.15だった。一方で、出生体重児、骨盤位、妊娠高血圧腎症、癒着胎盤のリスクは女児が男児と比べて頻度が有意に高く、調整オッズ比はそれぞれ1.19、1.15、1.09、1.11となった。
次に、双胎妊娠の場合、二絨毛膜二羊膜性双胎妊娠(胎盤が二つ、羊膜が二つの双胎妊娠)における胎児の性別ごとの各アウトカムの頻度は、早産では、胎児の組み合わせが男児ー男児の方が、女児ー女児に比べてリスクは有意に高く(オッズ比1.07)、妊娠高血圧腎症では、女児ー女児の方が男児ー男児に比べてリスクは有意に高く(調整オッズ比1.35)なっていた。一絨毛膜二羊膜性双胎妊娠(胎盤が一つ、羊膜が二つの双胎妊娠)における胎児の性別ごとの各アウトカムの頻度は、二絨毛膜二羊膜性双胎妊娠と同様に、胎児の組み合わせが男児ー男児であった場合、女児ー女児の場合に比べて早産のリスクが有意に高く(オッズ比1.06)なっていた。また、妊娠高血圧腎症のリスクは女児ー女児が、男児ー男児に比べて高く(調整オッズ比1.16)なっていたが、統計的に有意な差ではなかった。
胎児の性別によって注意すべき妊娠経過中のリスクが明らかに
今回、研究グループは、胎児の性別が妊婦の妊娠経過に与える影響とその度合いについて明らかにした。単胎妊娠においては男児を妊娠している方が早産、巨大児、常位胎盤早期剥離のリスクが高く、また女児を妊娠している方が低出生体重児、骨盤位妊娠、妊娠高血圧腎症、癒着胎盤のリスクが高いことが明らかになった。そして、双胎妊娠でも同様の傾向が見られ、男児ー男児の組み合わせでは女児ー女児の組み合わせと比べて早産のリスクが高く、妊娠高血圧のリスクが低いことが明らかになった。
研究結果から、妊娠経過は母親の体質や生活習慣などに影響されるほかに、ある程度胎児の性別による影響も受けているということが分かり、学術的に非常に興味深いと考えられた。研究は疫学研究として相関関係をみたものであり、そのメカニズムについては解明されておらず、今後の検討が期待される。なお、本研究は胎児の性別と妊娠経過との間に相関関係があることを見いだしたが、その影響力は弱く、胎児の性別によって合併症のリスクを心配したり、管理指針を変更するなどの必要はないという。「このプレスリリースは、リスク因子に関する疫学研究成果であり、臨床の場での実際の対応については専門医の指導を仰ぐべき」との留意点を、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース