副作用や医療費を抑えた治療薬が望まれる中、造血ホルモンEPOの産生機構は不明だった
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)は6月10日、腎臓のエリスロポエチン(EPO)産生細胞は、EPO産生に特化した特殊な細胞集団であることを証明したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科の柳田素子教授、金子惠一特定病院助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」にオンライン掲載されている。
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慢性腎臓病の増加は大きな健康問題の一つである。慢性腎臓病患者では赤血球産生が低下し、腎性貧血を発症することが知られる。これは、腎臓の線維芽細胞で産生され、骨髄で赤血球の産生を促す機能を持つ造血ホルモンであるエリスロポエチン(EPO)の産生能が、透析患者を含む慢性腎臓病患者では低下するためである。腎性貧血の治療として、合成したEPOの定期的な注射があるが、いくつかの副作用がある上、腎性貧血治療薬にかかる費用は年間500億円を超え、医療費の面でも問題となっている。近年、自身のEPO産生を増やす治療法(HIF-PH阻害薬)も用いられているが、EPOを産生する細胞のふるまいにはいまだ不明な点が多く残されている。その一番の理由は、EPO産生を停止したEPO産生細胞を観察することが困難であったことだ。
同研究グループは以前、腎臓の線維芽細胞の系譜追跡実験を行い、腎臓のEPO産生細胞が腎臓の線維芽細胞であることを証明していた。また慢性腎臓病が進行すると腎臓の線維芽細胞の性質が障害され、腎臓の線維化を引き起こし、さらに障害された線維芽細胞はEPO産生能が低下し腎性貧血を発症することを示していた。そのことから、慢性腎臓病で起こる線維化と腎性貧血という2つの病態は線維芽細胞の障害という共通した機序から生じると考えられた。
EPO産生細胞を常に標識する遺伝子組み換えマウスにより、挙動の解析が可能に
研究ではまず、任意の時点でEPO産生細胞を永久に標識する遺伝子組み換えマウス(EpoCreERT2/+マウス)を作製して、健康な腎臓と障害腎でのEPO産生細胞の挙動の解析を行った。その結果、健康な腎臓では線維芽細胞のごく一部であるEPO産生細胞が、いわばプロフェッショナル集団として、繰り返しEPOを産生すること、腎障害を起こさせるとこの細胞はEPO産生能を失うが、細胞自体は性質が変化した状態で存在しており、増殖して線維化に寄与していること、腎障害から回復すると再びEPO産生能を回復することを明らかにした。こうしたEPO産生細胞のふるまいは今回の解析で初めて明らかになったという。
本研究の結果は、EPO産生細胞が特殊な性質を持つプロフェッショナルな細胞集団である可能性を示唆している。「EPO産生細胞の性質の解析を進めることで、腎性貧血のより詳細な機序の解明と新しい腎性貧血治療薬の開発につながることを目標としている」と、研究グループは述べている。