動物実験を行わずに毒性検査を行う方法が求められている
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は6月7日、iPS細胞を用いて人体への毒性物質を簡易かつ非常に高い精度で検出できるシステム「StemPanTox(ステムパントックス)」を開発したと発表した。この研究は、CiRA未来生命科学開拓部門の藤渕航元教授(現、非常勤研究員)、山根順子特定研究員(現、増殖分化機構研究部門)、幹細胞を用いた化学物質リスク情報共有化コンソーシアムの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載されている。
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生活環境には10万種以上の工業生産物質があり、これらの物質の人体への安全性を正確・迅速・低コストで検査できる方法の開発が必要とされている。近年では、世界中で動物愛護の声が高まる中、毒性検査の新手法の確立に向けて世界的な競争が行われてきた。しかし、70種類以上もあると言われる人体の臓器に対してそれぞれの検査システムを開発するには膨大な時間やコストがかかることが課題となっていた。
有害物質を添加した際の遺伝子ネットワークをAI学習、iPSでも高い予測精度を維持
研究グループは、臓器に発達する前の未分化のES細胞のみを用いて胎児への毒性物質を予測できるシステムを2016年に開発していた。今回、このES細胞のシステムを使って成人の人体への毒性も検出できることを証明し、これをiPS細胞に応用できるかどうかの検証を行った。
研究では、成人への有害性が知られている24の物質を6つの毒性カテゴリー(神経毒、心毒、肝毒、腎・糸球体毒、腎・尿細管毒、発がん性)に分類し、ES(胚性幹)細胞にこれらの物質を添加した際の遺伝子ネットワークの変動をAIで学習させた。その結果、AUC(曲面下面積)がこれまで到達が難しかった0.9-1.0という非常に高い精度で毒性の有無を判定できるシステムを構築した。
さらに、ES細胞で学習したモデルを用いて、iPS細胞で物質を添加した際の毒性の有無を予測する「転移学習」を試したところ、iPS細胞のデータでもAUCが0.82-0.99という非常に高い予測精度を維持できることが判った。「将来的には、iPS細胞を用いて個人の特性を反映した毒性検査ができる可能性がある。」と、研究グループは述べている。
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