心血管リスク因子と体力、脳活動を介して社会的認知機能とどう関わる?
神戸大学は6月9日、心血管リスク因子(肥満、高血圧)と低体力が社会脳ネットワークに関係する脳活動の低下を介し、社会的認知機能の低下と関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院人間発達環境学研究科の石原暢助教と玉川大学脳科学研究所の松田哲也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Medicine & Science in Sports & Exercise」に掲載されている。
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過去40年で肥満の割合が3倍に増加するなど、心血管リスク因子を持つ人の増加は公衆衛生上の懸念事項となっている。また、ここ40年で人々の心肺持久力が低下していることを示すデータもある。このような中、心血管リスク因子と低体力が記憶や注意力などの認知機能の低下と関わることが示されてきた。しかし、社会的相互作用の基盤となる社会的認知機能に焦点を当てた研究はこれまで行われてこなかった。社会的認知機能は、私たちの社会生活や精神的健康に極めて重要な役割を果たしていることを考えると、心血管リスク因子を持つ人や低体力者が増加する現状において、このような人々が社会的認知機能低下のリスクを抱えているのかを明らかにすることは重要な課題であると考えられる。
そこで、今回研究グループは、心血管リスク因子および体力と社会的認知機能の関係を、機能的磁気共鳴画像法を用いて調べた。具体的には、米国Human Connectome Projectのデータベースに登録されている1,027人のデータを用いて分析。心血管リスク因子として、身長と体重から算出したBody Mass Index(BMI)および収縮期と拡張期の血圧データを使用した。体力の指標として、NIH Toolboxで測定された持久力、歩行速度、手指巧緻性、筋力のデータを用いた。社会的認知機能の指標として、アニマシー知覚(対象物に意図や生物性を感じること)の正確性と表情認知課題の反応時間と正答率を用いた。機能的磁気共鳴画像法を用い、社会的認知中(アニマシー知覚中)の脳活動を計測。これらのデータを用い、心血管リスク因子および体力と社会的認知中の脳活動の関係を調べた。その後、心血管リスク因子および体力が、社会的認知中の脳活動を介して社会的認知機能とどのように関わるかについて分析した。
BMIと血圧「高」/体力「低」、社会的認知中の社会脳ネットワークに関わる領域の脳活動が低い
研究の結果、BMIと血圧が高く、体力が低いほど、社会的認知中の社会脳ネットワークに関わる領域(側頭頭頂接合部、側頭葉、下前頭回、後帯状皮質)の脳活動が低いことが判明。これらの関係は、特にBMI、持久力、手指巧緻性において強いことがわかった。
また、心血管リスク因子と体力は、社会的認知中の脳活動を介し、アニマシー知覚の正確性と表情認知課題の成績と関わっていた。この結果は、BMIと血圧が高く、体力が低いことは、社会脳ネットワークに関係する脳活動の低下を介し、社会的認知機能の低下と関わることを意味している。
体重減と持久力・手指巧緻性向上に効果が高い介入法、社会的認知機能向上に効果的な可能性
今回の研究では、心血管リスク因子と低体力が社会的認知機能低下の原因なのか、社会的認知機能が低いことが心血管リスク因子や低体力の原因なのか、因果の方向は明らかにできていない。運動や食事などの健康的なライフスタイルが社会的認知機能を向上させることができるのかを調べるためには、実際に介入を行って効果を検証する必要がある。社会的認知機能との関係は特にBMI、持久力、手指巧緻性で強く認められたため、体重の減少と持久力および手指巧緻性の向上に効果が高い介入法は社会的認知機能の向上に効果的である可能性がある、と研究グループは述べている。
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