精神神経疾患で「ミスマッチ陰性電位」が減弱するメカニズムは不明だった
山梨大学は6月7日、同じ間隔で鳴っていた音が鳴らなかったとき、脳の前頭極-側頭葉ネットワークが活動することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部統合生理学教室、東京大学医学部附属病院精神神経科らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Psychiatry」に掲載されている。
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ミスマッチ陰性電位は、予測が外れて音が鳴らなかった時や、予測と異なる音が呈示されたときに生じる脳波成分であり、統合失調症などの精神神経疾患の患者で減弱していることが繰り返し報告されている。
ミスマッチ陰性電位の生成には、聞くことに特化した脳部位(側頭葉)と認知機能に関与する脳部位(前頭葉)が関わるとされてきたが、側頭葉と前頭葉の間でどのような情報が伝えられているのか、特に、予測や予測誤差に関わる信号が伝わっているのかは不明だった。また、ミスマッチ陰性電位と予測に関わる脳機能を理解するためには、詳細に脳の情報伝達を調べる新たな研究が必要だった。
予測誤差に関わる信号が、前頭極と側頭葉前部間で伝達されていることをサルで解明
研究グループは今回、ミスマッチ陰性電位と予測や予測誤差の関わりを調べることを目的に研究を行った。研究では、ニホンザル大脳皮質の側頭葉と前頭葉に皮質脳波電極を留置する特別な技術を使用。また、予測や予測誤差に関わる神経活動を取り出すため、同じ間隔で鳴る音をたまに(10%の確率)欠落させ、その時の神経活動を解析する方法を用いた。この手法を用いることで、音が欠落した時の神経活動が、音そのものではなく、予測や予測誤差に関わることが保証された。
その結果、音が欠落した時、前頭極と側頭葉前部の脳波信号の位相(周期のどの位置に信号があるのか)が、β帯域(12~30Hz:1秒間に12~30回振動すること)で同期(前頭極と側頭葉前部の位相が一致)することがわかった。このことは、音が鳴るのではないかという予測や、音が鳴らなかったという予測誤差に関わる信号が、前頭極と側頭葉前部間で伝達されていることを示している。これにより、ミスマッチ陰性電位の発生に関連することが知られていた予測や予測誤差に関わる信号が前頭極と側頭葉前部間で伝達されているという、新たな神経ネットワークが見出された。
精神神経疾患の病態に脳内予測メカニズムの障害が関連する可能性を示唆
今回の研究により、大脳皮質前頭極と側頭葉が予測や予測誤差の生成に関わる神経ネットワークを形成していることが明らかにされた。予測誤差との関連が知られるミスマッチ陰性電位は、統合失調症などの精神神経疾患で減弱することが知られている生物学的指標の代表的なものの1つ。ミスマッチ陰性電位は単純な音を聞かせることで得られる信号であるため、モデル動物で分子レベルの発生メカニズムを調べることもできる。
「ミスマッチ陰性電位の発生メカニズムの理解が進むことで、精神神経疾患の新しい診断や治療の開発に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース