閉経前乳がんリスクと肥満の関連、国内ビッグデータで検討
東京大学医学部附属病院は6月7日、45歳未満の女性約80万人のデータを解析した結果、BMIが22kg/m2以上であると乳がんにかかるリスクが低く、欧米と同様の関連を持つことを初めて示したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の小西孝明氏(医学博士課程)、田辺真彦准教授、康永秀生教授、瀬戸泰之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Breast Cancer Research and Treatment」オンライン版に掲載されている。
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乳がんは女性で最も多い悪性腫瘍であり、現在日本では9人に1人の女性が乳がんになるとされ、さらに増加傾向にある。乳がんの発生の仕組みはいまだに不明だが、女性ホルモンへの曝露など複数のリスクが知られている。閉経後の女性においては、脂肪細胞が主たる女性ホルモン産生の場であることから、人種・地域を問わず肥満が主なリスク因子であることがわかっている。しかし、閉経前の女性においては、肥満の乳がんリスクに人種差・地域差がある可能性が指摘されていた。欧米では、肥満の場合、閉経前乳がんのリスクが低い一方で、東アジアではその関連は不明とされ、むしろリスクが高い可能性が指摘されていた。
その根拠とされた先行研究では、解析された人数が少なかったり、解析対象の年齢が高かったり、BMIを一定の値で区切ってひとまとめにしてしまっていたりと統計解析上の問題点があると考えられた。乳がんの早期発見・早期治療の推進や乳がん発生の仕組み解明のためには、リスクを正確に同定することが極めて重要だ。そこで研究グループは、日本の医療ビッグデータを用いてBMIと閉経前乳がんとの関連を調査した。
BMI25以上30未満でハザード比0.81、BMI30以上で0.77
診療報酬請求明細書・健診のデータを含むJMDCデータベースを用いて、2005年1月から2020年4月までに健診でBMIを測定した45歳未満の女性78万5,703人(年齢中央値37歳、BMI中央値20.5kg/m2)を解析対象とした。観察期間中央値1,034日の間に5,597人(0.71%)が乳がんと診断されていた。喫煙や飲酒などの背景因子を調整したCox比例ハザードモデルに、BMIを区切ることなく解析可能な制限3次スプライン回帰モデルを組み合わせて解析を行った。
その結果、BMIが22kg/m2以上であると乳がんにかかるリスクが有意に低いことが明らかになった。乳がんにかかるハザード比は、BMIが25.0-29.9kg/m2で0.81(95%信頼区間0.73-0.89,P値<0.001)で、30.0kg/m2以上で0.77(95%信頼区間0.650.91,P値<0.001)だった。ホルモン受容体陽性乳がんでも同様の関連が示された一方、HER2陽性乳がんではそのような関連は認められなかった。
乳がん発生にBMI関連のホルモンが関与している可能性
45歳未満の女性においてBMIが22kg/m2以上では乳がんのリスクが低いことを示した。90%以上の日本人女性は45歳以降に閉経を迎えるとされていることから、東アジアにおいてBMIが閉経前乳がんに及ぼすリスクが欧米と同様であることを初めて示したといえる。
乳がんにかかる年齢のピークは東アジア(40~50歳代)と欧米(70歳代)で異なることが知られており、その原因はわかっていなかった。今回の研究結果に基づけば、肥満者が少ない日本を含む東アジアでは閉経前の40歳代から乳がんになりやすい一方で、肥満がリスクとなる閉経後乳がんは比較的少ないものと推測される。そのため、人口のBMI分布に基づいたがん検診の戦略が求められる。「乳がんの中でもホルモン受容体陽性乳がんで強い関連が認められたことから、乳がんの発生にBMIに関連するホルモンが強く関与していることが示唆される。いまだ不明な乳がん発生のしくみの解明に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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