「再発性多発軟骨炎」再発のリスク因子は不明だった
京都大学は6月6日、希少難病である「再発性多発軟骨炎」の症例解析により、疾患の再発に関わるリスク因子を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学博士課程学生の吉田常恭医師、同大医学部附属病院の白柏魅怜特定病院助教、医学研究科の吉藤元講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Arthritis Research & Therapy」に掲載されている。
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再発性多発軟骨炎は、耳、鼻、気管などの軟骨組織に炎症が起こる原因不明の疾患で、全身の複数の臓器が侵される可能性がある難治性の疾患。令和2年度の厚労省による登録患者数は日本全国でも840人と少なく、世界的にもまれな疾患だ。これまで早期発見の努力と、さまざまな免疫抑制療法が試みられた結果、生存率に関しては大きな進歩が得られてきた。しかし、完治の状態に至る確率はあまり高くなく、名前の通り再発を繰り返し、軟骨の不可逆的な破壊に伴う臓器障害が起こる。特に、気管軟骨に病変を有する患者では、気管や気管支の狭窄が起こり、慢性的に呼吸不全などの合併症のために、長期の生存率が悪くなることが知られている。
研究グループは、この不可逆的な臓器障害が炎症のコントロール不良に由来するという仮説を立て、再発のリスク因子を解析することが必要であると考えた。しかし、従来、再発性多発軟骨炎がまれな疾患であるため詳細な疫学的調査は困難であり、再発リスク因子についての明確な報告はなかった。そこで今回の研究では、再発リスク因子の同定を目的とした。
平均2.56回再発するが多くは軽症、初回再発時の症状の約7割が初発時と同様
研究グループは、書面による同意が得られた京都大学医学部附属病院に通院している再発性多発軟骨炎患者46人のうち、事前に別の病気の治療目的でステロイドによる治療が行われていた患者を除き、かつ、診断時や治療経過の詳細な情報が得られた34人を研究の対象とした。年齢、性別、罹病期間、罹患臓器、治療方法などの臨床情報を、匿名化した上でカルテから抽出した。
34人の患者のうち、女性は17人(50%)で、発症年齢の中央値は49歳だった。臨床症状として最も多かったのは耳の軟骨炎(67.6%)で、気管軟骨炎(32.4%)、関節炎(29.4%)が続いた。34人の患者のうち、25人(74%)が64回の再発を経験していた。これは1人当たり平均で2.56回再発していることになる。一方、入院を要する重度の再発は17.2%(11/74)に留まり、多くの再発は外来加療が可能な軽症であることがわかった。初回の再発までの期間の中央値は202日(55~382日)で、初回再発時の症状の約7割(68%、17/25)が、初発時の症状と同じだった。初回再発時のステロイドの量の中央値はプレドニゾロン換算で10mg/日(範囲5~12.75mg)だった。
「治療開始前のCRP高値」「気管(支)病変」「初期治療がステロイド単剤」が再発リスクと関連
続いて、34人の患者を再発した群と非再発群に分けて再発リスク因子を解析したところ、治療開始前の血清CRP値が高いこと(ハザード比 1.17, P値 0.0085)、気管・気管支病変の存在(ハザード比 4.27, P値 0.0048)、初期治療がステロイド単剤であること(ハザード比 4.44, P 値 0.0056)が再発リスクに関連することが判明した。
さらに、治療が再発に与える影響を詳しく検討するために、初回治療がステロイド単剤のみの群とステロイドに免疫抑制薬を併用した群を比較した。すると、ステロイド単剤のみの群よりも、ステロイドに免疫抑制薬を併用した群で初回の再発までの期間が統計学的な有意差をもって長い(経過が良好である)ことが判明した(400日vs.70日, P値 0.0015)。
病態解明と再発リスクに沿った治療指針作成への貢献に期待
今回の研究では、まれな疾患である再発性多発軟骨炎患者の症状や治療、再発までの期間などの詳細な情報を収集し、統計学的な手法を用いることで、再発時の詳細な臨床情報に加えて、再発のリスク因子を初めて同定することに成功した。この結果を用いれば、例えば、気管軟骨病変のある患者や血清CRP値が高い患者に対しては、難治性であることを予測し、早期からステロイド単剤ではなく免疫抑制薬を併用することで、再発を予防し、臓器障害の進展を防ぐことができる可能性が示唆された。
「本研究の成果を踏まえ、今後より多くの症例を蓄積したり、前向きの患者研究を行ったりすることによって、再発性多発軟骨炎の病態解明と、再発リスクに沿った治療指針の作成にさらに貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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