運動課題と認知課題を同時に行うことの有効性を検討
筑波大学は6月3日、平均年齢89.9歳の超高齢者24人を対象に二重課題運動(運動課題と認知課題の2つの課題を同時に行う)の有効性の定量的評価を試み、実施した群で身体機能と認知機能の両方が著しく維持・改善されたことがわかったと発表した。この研究は、同大テーラーメイドQOLプログラム開発研究センターの尹 之恩研究員、株式会社ルネサンス 健康経営ソリューション部 ソリューション開発チームの上田哲也氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Alzheimer’s & Dementia:Translational Research & Clinical Interventions」に掲載されている。
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厚生労働省の推定によると、2025 年には高齢者の5 人に1 人が認知症患者になるといわれている。加齢に伴い、身体や認知機能は衰えていくが、運動の実施が身体機能や認知機能の維持・向上に寄与する可能性があることが報告されている。近年、動物実験や実験室レベルでのヒト研究、疫学調査研究によって、運動や身体活動による機能の低下抑制効果を示唆するデータが数多く示されているが、それらのほとんどは、身体機能向上に特化した運動であり、認知機能に対する効果はあまり検証されていなかった。
研究グループはこれまでに、運動課題と認知課題の2つの課題を同時に行う二重課題運動に注目し、高齢者の身体機能や認知機能向上の新たな方策としてその可能性について探索してきた。2020年には、身体機能や認知機能の共役関係によるシナジー効果の可能性について報告している。そこで今回の研究では、高齢者よりも身体機能や認知機能の向上が困難といわれている超高齢者(85歳以上)を対象に、低強度の運動で構成され、超高齢者でも無理なく楽しめるゲーム感覚の「シナプソロジー(R)」と呼ばれる運動プログラムを用いて、高度の二重課題運動の有効性の定量的評価を試みた。
平均年齢89.9 歳、二重課題運動実施群で身体機能と認知機能の両方が改善
老人ホームに入居する平均年齢89.9 歳(85~97歳)の超高齢者24人を対象に、二重課題運動群(12人)と非実施群(対照群)(12人)とに無作為に分けて、2グループ間の身体機能と認知機能の変化を比較した。二重課題運動群は運動プログラムを、週2回(60分/回)、24週間にわたって実施。具体的には、二重課題運動として、日本の伝統的遊びである「じゃんけん」や「ボール回し」の身体動作と、数字の計算や言葉を使う脳活性課題を組み合わせて、同時に行った。週を重ねるにつれて二重課題の難易度を増すようにプログラムを設計した。
その結果、二重課題運動群では、6種の身体機能評価項目中でも、48-hole trail-making peg testおよびone-leg balance with eyes openの成績が、非実施群と比較して有意に高く、身体機能が向上していることが認められた。また、認知機能評価項目であるMMSE(Mini-Mental State Examination scores)も著しく改善された。一方、運動を実施していなかった対照群は、全ての項目で負の結果を示し、身体や認知機能が時間とともに低下していることが明らかになった。
「ゲーム感覚かつ集団で楽しめる」ことで参加率も高く
今回実施した二重課題運動プログラムには、車いすや杖を使用する超高齢者も参加したが、ゲーム感覚かつ集団で楽しめるように構成されているため、参加率が極めて高く、社会的交流の機会が減っている超高齢者のメンタルヘルスにも有効な影響をもたらすと考えられた。
「研究で用いたような楽しく二重課題運動を継続的に実施すれば、身体や認知機能が維持・改善され、認知症を発症せずに健康寿命を伸ばすことができると考えられる。今後、身体と認知機能を同時に活性化させるための、より高度なプログラムの開発に取り組む」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL