日本の職場におけるネットいじめの実態やメンタルヘルスへの影響は不明だった
筑波大学は6月3日、職場におけるいじめの実態やメンタルヘルスへの影響を調査解析した結果を発表した。この研究は、同大医学医療系の堀大介助教、池田朝彦助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Public Health」に掲載されている。
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コロナ禍に伴うテレワークの拡大により、働く人を取り巻く環境が急速に変化している。その中で、インターネットを介した「ネットいじめ」の増加が世界的に懸念されている。しかし、日本において、職場におけるネットいじめの実態や、メンタルヘルスへの影響は明らかになっていなかった。
そこで研究グループは今回、職場におけるネットいじめ、従来からみられていたインターネットを介さない形態のいじめ(従来型いじめ)のそれぞれについて、いじめを受けている頻度、受けている者の特徴、メンタルヘルスへの影響を明らかにすることを目的として、調査解析を実施した。
全体の8.0%がネットいじめを、11.3%が従来型いじめを週に1回以上受けていた
今回の調査では、休職中ではない20〜64歳の正社員を対象として、2021年1月に「職場でのポジティブ/ネガティブなコミュニケーションとメンタルヘルスに関する実態調査研究」(無記名自記式ウェブ調査)を実施し、回答を得た1,200人(男性800人、女性400人)について解析を実施。同調査での質問項目として、職場におけるネットいじめについてはICA-W(Inventory of Cyberbullying Acts at Work)、従来型いじめについてはS-NAQ(the short form of Negative Act Questionnaire)を用いた。
その結果、全体の8.0%が週に1回以上の頻度でネットいじめを、11.3%が週に1回以上の頻度で従来型いじめを受けていることがわかった。
若年齢、管理職、テレワークが高頻度などが、ネットいじめを受ける頻度の高さと関連
最も多くみられたいじめのパターンとしては、ネットいじめでは「職場であなたのEメール、電話での通話、メッセージが無視される」、従来型いじめでは「あなたが仕事をする上で影響を及ぼすような情報を与えてもらえなかった」であり、双方とも全体の5.0%が受けていた。また、年齢が若いこと、管理職であること、困難な業務に取り組んでいること、インターネットによる情報発信が活発であること、テレワークの頻度が多いことが、ネットいじめを受ける頻度の高さと統計的に有意に関連していた。
「従来型いじめ」と「ネットいじめ」の両方を受けることで、メンタルヘルスへの影響がより重篤に
さらに、クラスター分析を行い、従来型のいじめとネットいじめのどちらも受けていない群(X群:81.0%)、従来型のいじめのみ受けている群(Y群:14.3%)、従来型のいじめとネットいじめの両方を受けている群(Z群:4.8%)の3群に分けたところ、X群に比べ、Y群とZ群は心理的苦痛、不眠感、孤独感といったメンタルヘルス不調を示す指数が有意に高いことがわかった。
この結果は、二項ロジスティック回帰分析により年齢、性別、性格特性、業務上の負荷などの影響を考慮しても有意であり、メンタルヘルス不調のオッズ比はY群に比べZ群がより高くなった。つまり、「従来型いじめとネットいじめの両方を受けることで、メンタルヘルスへの影響がより重篤になる」ということが明らかになった。
今回の研究により、日本の職場におけるネットいじめの実態が明らかにされた。「本研究結果は、職場におけるネットいじめの対策や予防を検討する際の第一歩となるものであり、このような研究の積み重ねは、働く人のメンタルヘルスの向上に結びつくと期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL