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原発性腋窩多汗症の新たな選択肢「ラピフォートワイプ2.5%」登場 – マルホ

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2022年06月06日 PM01:00

多汗症による年間損失額は全体で3.7兆円と推計

マルホは2022年5月10日、「変わる多汗症治療の最前線~多汗症をめぐる意識・実態調査の結果も発表~」として、プレスセミナーを実施した。同社は2022年1月に原発性腋窩(えきか)多汗症治療剤「ラピフォート(R)ワイプ2.5%」(一般名:グリコピロニウムトシル酸塩水和物)の製造販売承認を取得し、同年5月23日に発売を開始している。

本セミナーでは、東京医科歯科大学名誉教授 横関博雄氏が多汗症における最新治療について講演するとともに、池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長 藤本智子氏が「多汗症患者のアンメットメディカルニーズ」として、近年の意識実態調査の結果を紹介した。

同社が2020年に行ったインターネット調査によると、日本人においては10人に1人が多汗症とされている1)
症状が現れるのは手のひらや脇、顔や頭などで、患者からは「スマホやPCがさびる」「サンダルやミュールがすべって歩くのが大変」という悩みが聞かれる。学業上や職業上の悩みだけでなく、対人関係の悩みを抱えることになりやすく、QOLの低下につながる。厚生労働省の難治性疾患克服研究事業の報告によると、全般労働生産性が低下した患者の割合は30.5%で、労働生産性低下に伴う1カ月あたりの社会的損失額は、患者1人あたり120,593円、年間損失額は全体で3.7兆円と推計される2)

中でも多汗症の6割を占める1)「原発性腋窩多汗症」では、同社が診断基準に該当する1,505例を対象に行った調査において回答者の約8割が1週間に1日以上脇汗が原因で「恥ずかしい思いをした」、「自信を失った」と答えており、日常生活へ与える影響は大きい。また、腋窩多汗症では、重症度と実際の発汗量が必ずしも比例せず、発汗量が少ない場合でも日常生活に支障を感じる患者がいたことが調査で明らかになっている3)

グリコピロニウムトシル酸塩水和物外用療法と今後の診療アルゴリズム

国内の原発性局所多汗症診療ガイドライン4)の治療アルゴリズムでは、現在、腋窩に関しては塩化アルミニウム液による外用療法(推奨度B)、効果が得られない場合はさらにボツリヌス毒素の注射(推奨度B)、さらに不変の場合はこれらの併用をすすめている。しかし、塩化アルミニウム外用療法では多くの患者で接触皮膚炎が起こるため、ステロイド外用薬によるコントロールが不可欠である。また、保険適用となっている薬剤がないため、院内や薬局で調剤する必要がある。ほかにも併用療法として神経ブロック、レーザー療法、内服療法、精神(心理)療法、交感神経遮断術などがあるが、推奨度はC1~2となっていること、保険適用となるケースに限りがあることなどから、患者にとって有効な治療選択肢が多くあるとはいえない状況だといえる。


東京医科歯科大学名誉教授
横関博雄氏

そのような中、抗コリン薬であるグリコピロニウムトシル酸塩水和物外用療法について、2021年に国内で497名を対象に多施設共同二重盲検ランダム化比較試験が実施され、その有効性・安全性が明らかになった3)

すでに現在、海外における腋窩多汗症治療の第一選択は、抗コリン薬を含む外用薬の使用となっている4,5)。横関氏は「国内の多汗症診療アルゴリズムも現在見直しが行われており、腋窩多汗症治療の第一選択としては塩化アルミニウム療法とともに、外用抗コリン薬も第一選択とすることを検討している」と述べた。

新薬の登場が社会の認知向上を後押しする可能性も

池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長 藤本智子氏は、マルホが行った原発性腋窩多汗症の診断基準に該当する人1,505例を対象にした調査を紹介。「自分はわきの多汗症である」という自覚がある人は9割にのぼる一方で、過去に受診したことのある人は約1割にとどまっていることを指摘した。また、直近1年以内に脇汗対策として受診していない理由として、50%が「どの病院に行けばよいかわからないから」、35%が「わざわざ病院に行くほど重大な病気ではないから」と回答したことを紹介しつつ、多汗症は身近でありながら、社会的な理解が進んでいない疾患であることを提示した。


池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長
藤本智子氏

その一方で、藤本氏は「汗をかくこと自体は決して悪いことではないし、多汗症は必ず治療しなくてはならない病気ではない」と強調した。「しかし、汗に関して日常で悩んでいる症状があれば、ひとりで悩まず、皮膚科で相談するという選択肢もあることを知ってほしい」と社会の理解を求めた。

原発性腋窩多汗症における外用療法の普及により、患者の治療選択肢が増えることのみならず、多汗症は治療が可能な疾患であること、皮膚科で相談ができることなど、疾患の認知向上や社会の理解の広がりも期待される。

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