過剰なビタミンD不活性化酵素の働きで、骨粗鬆症やがんを引き起こす可能性
富山県立大学は6月3日、ビタミンD不活性化酵素を選択的に阻害する核酸分子の取得に成功したと発表した。この研究は、同大工学部医薬品工学科の安田佳織講師、榊利之特別研究教授、磯貝泰弘教授、金沢大学ナノ生命科学研究所の中島美紀教授、ビヤニ・マドゥ特任助教ら、バイオシーズ株式会社の研究グループによるもの。研究成果は、「ACS Applied Materials & Interfaces」にオンライン掲載されている。
ビタミンDは、丈夫な骨や筋肉を保つとともに、免疫力を高める重要な栄養成分として、近年注目されている。ビタミンDは、食品摂取や日光を浴びることで皮膚において合成され、体内に供給される。その後、肝臓と腎臓で水酸化され、活性型ビタミンDへと変換されることで、さまざまな生理作用を発揮する。その作用は、骨形成・骨代謝、血中カルシウム濃度調節や細胞の増殖・分化、免疫調節まで多岐にわたる。活性型ビタミンDは、ビタミンD受容体と結合することでこれらの作用を発揮するが、この際、不活性化酵素CYP24A1が誘導され、生体内の活性型ビタミンD濃度を低下する方向に働く。
一方で、ビタミンD不活性化酵素の働きが過剰になることで、活性型ビタミンDの体内濃度が低下し、骨粗鬆症や数種のがんを引き起こす可能性が知られている。例えば、慢性腎臓病ではCYP24A1が過剰に発現して骨粗鬆症などの骨疾患を引き起こす。また、一部のがん細胞で CYP24A1が過剰に発現していること、血中ビタミンD濃度の低下が骨粗鬆症や一部のがんに対するリスクを高めることが報告されている。このことから、CYP24A1特異的な阻害剤は、これらの疾患治療薬への応用が期待される。
CYP24A1阻害剤として、数種の低分子化合物が報告されているが、いまだ医薬品になった例はない。そこで今回、研究グループは、より特異性と親和性の高い阻害剤を目指して研究を進めた。
核酸ライブラリからCYP24A1高親和性のApt-7を取得、阻害効果を確認
1018のランダム配列を含む核酸ライブラリーから、ビタミンD不活性化酵素(CYP24A1)と親和性が高く、かつ、活性型ビタミンD生成酵素(CYP27B1)と親和性の低い核酸配列の集団を取得。得られた多種類の核酸配列を次世代シーケンスにて解析し、配列の出現頻度や2次構造の違いをもとに、候補を11種類に絞り込んだ後、それらのCYP24A1に対する阻害試験を行った。
CYP24A1に対する阻害効果がみられた4種類の配列について、他の酵素に対する阻害を調べたところ、いずれもCYP24A1とアミノ酸相同性の高い活性型ビタミンD生成酵素やステロール代謝酵素に対しては阻害効果がなく、CYP24A1を選択的に阻害することがわかった。
取得した核酸分子の1つであるApt-7とCYP24A1との結合の様子を、高速原子間力顕微鏡で捉えた。この観察結果と分子ドッキングシミュレーション、酵素学的実験を組み合わせ、その阻害部位を予測した。
さらに、ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株(A549細胞)を用いて、Apt-7のがん細胞増殖抑制効果を調べた。その結果、Apt-7を活性型ビタミンD3とともに添加した場合、単独で活性型ビタミンDを添加した場合と比べて、CYP24A1による不活性化が抑えられ、がん細胞増殖抑制効果が高まることが明らかになった。
Apt-7の改良により、CYP24A1過剰発現に伴うがん/骨粗鬆症の治療薬開発へ期待
今回の研究では、ビタミンD不活性化酵素CYP24A1を選択的に阻害する核酸分子Apt-7を取得し、がん治療につながる可能性を示した。今後、阻害効果を向上させる配列の最適化や生体内での安定性を高める修飾など、Apt-7を改良していくことで、CYP24A1の過剰発現に伴うがんや骨粗鬆症の治療薬へとつながることが期待される、と研究グループは述べている。
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・富山県立大学 プレスリリース