世界初の「ひきこもり」研究外来、未服薬ひきこもり者41人・健常者42人を対象に
九州大学は6月2日、ひきこもり者の血液中の代謝物や脂質の測定により、ひきこもりに特徴的な血液バイオマーカーを発見したと発表した。この研究は、同大病院検査部の瀬戸山大樹助教、康東天教授、同病院精神科神経科の加藤隆弘准教授、松島敏夫大学院生、中尾智博教授、神庭重信名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Dialogues in Clinical Neuroscience」に掲載されている。
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日本における「ひきこもり者」の数は100万人を超え、その対策は喫緊の課題だ。また、日本だけでなく、海外でもひきこもり者の存在が示唆されている。ひきこもりは、オックスフォード辞書でも「hikikomori」と表記されており、日本発の社会現象として世界的に認知されている。コロナ禍においてさらなる人数増加が懸念され、「Hikikomori」への世界規模の対策が望まれている。
これまで、ひきこもりは6か月以上自宅に引きこもるといった特徴に基づいて評価されてきた。しかし、厳密な診断評価法はなく、客観的指標で評価しようとする試みはなかった。ひきこもりはうつ病を始めとするさまざまな精神疾患や身体疾患との並存が示唆されているが、詳細はほとんど解明されていない。
研究グループは、世界初のひきこもり研究外来を立ち上げ、すでにひきこもりに関する国際的な診断評価法を確立してきた。さらに、これまで質量分析による血しょうメタボローム解析を駆使することにより、血液中のいくつかの代謝物がうつ病の判別や重症度に関連していることを報告。客観的指標としての血液解析法を確立してきた。
今回の研究では、ひきこもり研究外来で未服薬のひきこもり者41人と年齢・性別をマッチさせた健常者42人を対象に、血液メタボローム解析を実施。ひきこもり者を特徴づける血中成分(バイオマーカー)を探索した。
ひきこもり者、オルニチン・長鎖アシルカルニチン「高」/ビリルビン・アルギニン「低」
研究の結果、ひきこもり者の血中では、健常者よりオルニチンと長鎖アシルカルニチンが高く、ビリルビンとアルギニンが低いことが判明。また、男性では血清アルギナーゼが高値だった。
続いて、血液成分と臨床検査値を加えた情報に基づいた機械学習判別モデル(ランダムフォレストモデル)を作成。ひきこもり者と健常者を、高い精度(ROC曲線下面積が0.854(機密区間0.648-1.000))で識別することができるとわかった。
ひきこもり重症度も高精度に予測
さらに、部分最小二乗法(PLS)-回帰モデルによって、ひきこもりの重症度を高い精度で予測することができた。
また、ひきこもり者の臨床像に基づく層別化(クラスター分類)に寄与する血液成分として、尿酸値とコレステロールエステルを新たに同定した。
今後の予防法・支援法開発に期待
同研究の最も重要な点は、世界で唯一のひきこもりを専門とする九州大学病院ひきこもり研究外来で、厳密な評価に基づくひきこもり者の血液検体が収集され、未服薬の被験者のメタボローム解析を含む血液バイオマーカーを報告した最初のレポートであることだという。
ひきこもり者を特徴づけるいくつかのバイオマーカーについては、今後、栄養療法などの予防法・支援法の開発が進むことが期待される。また、ひきこもり者とうつ病患者など他の精神疾患との相違点の解明など、生物学的な理解が進むきっかけになることが考えられる、としている。
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・九州大学 研究成果