認知機能検査は「利用できる人が限定的」という問題があった
筑波大学は6月2日、高齢者自身が気軽に実施でき、国や地域に関わらず利用可能な、言語を用いた回答を必要としない、認知機能低下検出のための新しいツールを開発したと発表した。この研究は、同大医学医療系 新井哲明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JMIR Formative Research」に掲載されている。
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世界的に高齢化が進む中、認知機能の低下を早期に検出することは、アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の予防および診断・治療の観点で極めて重要だ。認知機能低下の検出には通常、専門家による認知機能検査が用いられる。こうした認知機能検査は、さまざまな言語に翻訳されて利用されているものの、世界的に見れば「利用できる人が限定的」という問題がある。
そこで研究グループは、高齢者自身が気軽に実施でき、国や地域に関わらず利用可能な、言語を用いた回答を必要としない、認知機能低下検出のための新しいツールを開発した。
描画速度や筆圧などを自動で分析、日米で共通した認知機能低下の特徴を発見
今回開発したツールは、高齢者がタブレット端末に描画したデータから、描画速度や静止時間、筆圧やペンの傾きを自動で分析し、AI を活用して認知機能の低下の程度を推定するというもの。
ツールを開発するにあたり、まず、日本と米国において、認知症の診断のない65 歳以上の高齢者男女92人(日本:37人、米国:55人)を対象として、認知機能検査と開発したツールによる描画タスクを実施した。データ解析の結果、認知機能が低下するにしたがって、「描画速度のばらつき」や「静止時間の増加」といった傾向が、日本と米国の高齢者に共通してみられた。この傾向は、年齢・性別・教育歴などを考慮しても、統計的に有意であることが明らかになった。
米国人データによるモデルで、日本人の認知機能レベルを高精度に推定
次に、描画動作の特徴のみから認知機能のレベルを自動で推定するためのモデルをAI 技術を活用して構築し検証を行った。その結果、米国の高齢者から収集したデータを用いて構築したモデルは、日本の高齢者の認知機能レベルを高い精度で、かつ、描画や音声などの行動データから認知機能のレベルを推定する従来のモデルよりも正確に推定することに成功した。
認知症の早期発見・早期介入の一助となることに期待
今回の研究成果により、普及が進んでいるタブレット端末を用いて、在宅や介護予防教室などの多様な環境で手軽に認知機能の評価ができる可能性が示された。特に、言語に依存しない描画データを解析対象とすることで、国や地域に関わらず利用できる評価ツールの提案は、同研究が世界初となる。
認知症の診断率は、中・低所得国でとりわけ低く、90%以上の認知症者が診断されず、適切な治療を受けられていないと言われている。「このようなツールは、認知症の早期発見・早期介入という世界的な課題の解決に向けた一助となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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