往診を頻繁に利用するハイリスク層の特定、対策が不可欠
筑波大学は5月30日、茨城県つくば市および千葉県柏市の医療レセプトと要介護認定調査を連結した匿名化データセットを用いて、訪問診療を新たに開始した65歳以上の高齢者における頻回往診(平均月1回以上の往診と定義)を予測するリスクスコアを開発したと発表した。この研究は、同大医学医療系/ヘルスサービス開発研究センターの田宮菜奈子教授らの研究グループによるもの。研究成果は「BMC Primary Care」に掲載されている。
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日本における在宅医療の需要は、高齢化の進展に伴い大きく増加している。厚生労働省も高齢化を背景に、医療機関の機能分化と連携を進める地域医療構想を打ち出している。2006年から08年にかけて、在宅医療における緊急時の往診や看取りを推進するため、在宅療養支援診療所/病院が創設された。しかし、在宅療養支援診療所/病院の医師の7割以上が24時間のオンコール対応に負担を感じているとの報告もある。
今後も需要の増加が予測される中、在宅医療をさらに充実させるためには、緊急往診(以下往診)を頻繁に利用するハイリスク層を特定し、プライマリ・ケア医の身体的・心理的負担を軽減する対策を講じることが不可欠と考えられる。また、往診のリスクを知ることで、患者・家族側の適切な準備やアドバンスドケアプランニング(ACP)にもつながる。
先行研究では、日本で訪問診療を受けている患者において、発熱、看取り、呼吸困難、咳による往診が多いことが報告されていた。しかし、往診を頻繁に利用する患者を予測するリスクスコアはこれまでに存在していない。そこで研究グループは、訪問診療を受けている高齢者における頻回往診を予測するリスクスコアの開発と検証を行った。
要介護1~5の65歳以上の患者を対象に、訪問診療開始から1年後まで追跡
リスクスコアの開発には、茨城県つくば市と千葉県柏市における、国民健康保険制度および後期高齢者医療制度の医療介護保険レセプトデータを用いた。つくば市では2014年7月~2018年3月、柏市では2012年7月~2017年3月の間に新たに訪問診療を開始した、要介護1~5の65歳以上を対象とした(4,888人)。訪問診療開始から1年後まで(1年以内に終了した場合は訪問診療終了の翌月まで)患者を追跡調査し、平均月1回以上の往診を頻回往診と定義し、アウトカムとした。
年齢、性別、在宅医療における処置、要介護度、訪問診療開始時の疾患などの予測変数候補(全19変数)の中から、10分割交差検証法によるLeast absolute shrinkage and selection operator(LASSO)ロジスティック回帰を用いて予測モデルを構築し、簡便なリスクスコアを作成した。予測モデルの識別能力の評価としてReceiver operating characteristic(ROC)曲線を描き、すべての候補変数が含まれるモデルと曲線下面積(AUC)を比較した。
在宅酸素療法/要介護度4~5/悪性腫瘍が予測因子、3因子リスクスコアAUCは0.707
対象患者4,888人中、頻回往診は13.0%(634人)に認めた。解析の結果、「在宅酸素療法」(3点)、「要介護度4~5」(1点)、「悪性腫瘍」(4点)の3つが頻回往診の予測因子となった。3因子リスクスコアのAUCは0.707で、全ての候補変数を用いたモデル(AUC:0.734)と比較しても遜色がない良好な識別能を示した。スコアの算出方法と各スコアにおける頻回往診の確率の推定値は、「80歳男性、要介護度4、在宅酸素あり、悪性腫瘍なし」の患者のリスクスコアは4点となり、頻回往診の確率は20.9%と予測することができるという。
プライマリ・ケア医の負担軽減に役立つことが期待される
今回開発した、この簡便なリスクスコアを用いることで、頻回往診を必要とするハイリスク患者を訪問診療開始時に特定し、人員の整った医療機関に集約させるなどの対策が可能となる。これにより、容体急変時の適切なケアやソロプラクティスのプライマリ・ケア医の負担を減らすのに役立つと期待される。また、患者・家族側もリスクを知っておくことで、急変時にすぐに対応できるよう準備をしておくなどの対策が可能になる。「今回の研究では、つくば市、柏市のデータ以外での外部検証はなされていないため、今後はこのリスクスコアを、実際の臨床現場でのデータや、他の市町村のデータを用いて検証し、必要に応じて改善していくことが望まれる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL