NITs構成因子により診断能が変化することが指摘されていた
名古屋大学は5月31日、アジア3か国(日本・韓国・台湾)における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者1,489例の肝生検データを用いて、NAFLDの予後に最も関わると報告されている肝線維化を予測する、非侵襲的肝線維化マーカー(FIB-4 index、NAFLD fibrosis scoreなど)の特徴を検討した結果を発表した。この研究は、同大大学医学部附属病院消化器内科 伊藤隆徳病院助教、同大大学院医学系研究科消化器内科学 石上雅敏准教授らの研究グループ、Stanford大学(米国)のMindie H. Nguyen教授・Ramsey C. Cheung教授、Hanyang大学(韓国)のDae Won Jun教授、Kaohsiung大学(台湾)のMing-Lung Yu教授、大垣市民病院の豊田秀徳消化器内科部長、川崎医科大学総合医療センターの川中美和准教授、日本医科大学の厚川正則准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」(電子版)に掲載されている。
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NAFLDは、近年日本を含むアジアで急速に増加しており、日本人一般人口におけるNAFLD頻度は2030年までに約40%、2040年までに約45%まで増加する見込みであることが報告されている。また、NAFLDの病態が進行した場合は肝硬変や肝がんを合併するが、生命予後に最も関連するリスクは、肝線維化(肝硬変の度合い)だ。肝線維化診断のゴールドスタンダードは肝生検だが、出血などの合併症があり、生検の代わりとなる肝線維化予測マーカーが開発・使用されている。
FIB-4 indexやNAFLD fibrosis score(NFS)は、年齢や肝酵素、メタボリック要素などの臨床データを複合することで計算される、非侵襲的肝線維化予測マーカー(non-invasive tests; NITs)であり、特に肝臓専門医へ紹介する前のプライマリ・ケアの現場で、NAFLD線維化高リスク患者を拾い上げるために頻用されている。NAFLDガイドラインでも、これらのマーカーに基づいた診断アルゴリズムが推奨されているが、年齢や糖尿病の有無などNITs構成因子により、それらの診断能が変化することが指摘されている。そこで研究グループは今回、「さまざまなタイプの患者ごとに適したNITsが異なる可能性があるではないか」と考え、検討を開始した。
NITsの中で最も単純な式で計算される「FIB-4 index」が最も高い肝線維化予測能
研究では、肝生検にて確定診断されたアジア人NAFLD患者1,489人(計6施設:日本(n=821)、台湾(n=341)韓国(n=327))の臨床データを用いて、3種類のNITs:FIB-4 index・NFS・Hepamet fibrosis score(HFS)の肝線維化予測能を検討。肝線維化新進行例(F3-F4)は20.6%で認められ、ROC解析の結果、これらNITsの中で最も単純な式で計算されるFIB-4 indexが、最も高い肝線維化予測能を示した。
どのNITsも線維化予測能は、若年・肥満・糖尿病合併の存在で大きく低下
しかし、年齢・BMI・2型糖尿病の有無別に検討した結果、いずれのNITsも若年・肥満・2型糖尿病の存在下でその診断能力は低下することが判明した。一方で、2型DM合併非肥満NAFLD患者ではそれらの診断能が最も高くなることが明らかになった。
肥満・糖尿病を合併する若年NAFLD患者は、これらのNITs以外で線維症を評価する必要性
今回の研究成果により、線維化診断能力が最も高い血清NITsはFIB-4 indexであることが判明した。しかし、肥満・糖尿病を合併する若年NAFLD患者では、これらの血清NITsの診断能力が低下するため、それ以外の診断ツールを追加することで、肝線維化の存在を評価する必要がある。
特に、肝臓専門医や高次医療機関に紹介する際には、これらの検査法の利点・欠点を、プライマリ・ケア担当医が理解することが重要と考えられる。アジア人と欧米人のNAFLDは遺伝的・環境的背景の違いから特徴が大きく異なることから、日本人を含むアジア人で多数例の検討を行った同研究結果は、貴重であると考えられる。
「今後は、FIB-4 index診断能が低い患者群において、肝線維化を低コストかつ確実に予測するには、どのような検査を追加すべきかどうか、またアジア人以外の人種と比較するためにも、多施設国際共同研究を実施する必要がある」と、研究グループは述べている。
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