2021年8月に調査、訪問診療に携わる医療機関職員が対象
筑波大学は5月30日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大が続く2021年8月に、在宅医療従事者のメンタルヘルスや関連する支援の実態を初めて調査し、その結果を発表した。この研究は、同大医学医療系の濵野淳講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Primary Care」に掲載されている。
画像はリリースより
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2021年7月以降に発生したCOVID-19「第5波」では、過去の感染状況を大きく上回る感染爆発となった。その結果、医療機関での診療・入院が困難な状況が続き、感染者、濃厚接触者が在宅で療養せざるを得ない状況が発生した。また、感染者を受け入れる病床を確保するために、一般入院の病床数が減ったり、入院中の面会が制限されたことなどから、以前は入院治療を受けられていた慢性疾患を抱える人が在宅で療養することも多くなっているといわれていた。
一方、COVID-19の流行拡大が医療従事者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが、世界的にも明らかになり、国や自治体はさまざまな支援を行ってきた。しかし、在宅医療(訪問診療)従事者については、メンタルヘルスや支援の実態は明らかになっていなかった。そこで研究グループは2021年8月、国内で訪問診療を行っている医療機関の職員を対象に、COVID-19に関する恐怖、不安・抑うつ症状、そして、受けている支援の実態などを調査した。
解析対象は311人、COVID-19恐怖尺度などを用いて評価
訪問診療を行っている国内37施設の職員を対象に、2021年8月に無記名のWebアンケート調査を実施した。この時期は、21都道府県で緊急事態宣言が発令されていた。アンケートでは、COVID-19に対する恐怖を評価するCOVID-19恐怖尺度や、不安・抑うつ症状を評価する尺度を用いて、在宅医療従事者のメンタルヘルスを調査した。また、COVID-19の流行拡大に対して、地域や自治体から提供されている支援の実態と、必要と感じている支援についても調査した。
328人からの回答のうち、未入力データがあった17人を除いた311人のデータを解析した。回答者の職種は、看護師(32.8%)、医師(24.8%)、事務職員(18.0%)、ソーシャルワーカー(6.8%)などだった。
医師に比べ看護師/事務職員でCOVID-19に対する恐怖「大」
解析結果から、COVID-19に対する恐怖は、医師に比べて看護師、事務職員で大きく、抑うつ症状は、医師に比べて看護師、ソーシャルワーカー、事務職員で大きいことがわかった。この理由として、在宅医療では、訪問先の感染状況がわからない状態で最初に患者や家族に接するのが医師以外の職種である場合が多いことや、住宅環境によっては、適切なソーシャルディスタンスが保てないことなどが関係している可能性が考えられる。
必要な支援は「感染防護具の配給システム」「COVID-19に関する専門家の講義」など
「とても必要、または必要と感じている支援」は、感染防護具の配給システム(68.2%)、在宅医療従事者の心理的ストレスや感情的な疲れをサポートするシステム(57.2%)、オンラインによる感染症専門家との相談システム(55.6%)、COVID-19に関する専門家の講義(55.0%)などだった。このうち、COVID-19に関する専門家の講義を必要と感じる割合は医師で多く、国や自治体による感染防護具の配給システムを必要と感じる割合は、医師、看護師で多いという、職種による違いが見られた。
不十分な支援は「専門家による、現場/オンラインでの感染コントロールの指導」
「支援が必要だが不十分だと感じていること」として挙げられたのは、専門家による現場での感染コントロールの指導(39.2%)、専門家によるオンラインでの感染コントロールの指導(38.3%)、心理的ストレスや感情的な疲れをサポートする体制(37.9%)などだった。このうち専門家による現場での感染コントロールの指導を十分に受けられていないと感じる割合は、看護師で多く(47.1%)、心理的ストレスや感情的な疲れをサポートする体制が十分でないと感じる割合は、看護師(43.1%)、事務職員(39.3%)、ソーシャルワーカー(38.1%)で多い傾向があった。
職種に合わせたメンタルサポートや支援が必要
これらのことから、COVID-19の流行拡大が在宅医療従事者のメンタルヘルスに与える影響は、医師よりも看護師、ソーシャルワーカー、事務職員の方が顕著であり、職種に合わせたメンタルサポートや支援が必要であることが示唆された。
「今回の研究は、COVID-19の流行拡大に際して、国内の在宅医療従事者のメンタルヘルスの実態や、在宅医療従事者が必要と感じている支援について分析した初めての調査。研究結果が、今後の在宅医療におけるCOVID-19対策に活用されていくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL