腸管上皮ユニークな炎症抑制細胞DPIEL、発生維持の仕組みは?
慶應義塾大学は5月27日、小腸の上皮直下に存在する免疫細胞が、腸内細菌によって形成される低酸素環境に適応することで誘導維持されることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(消化器)の原田洋輔特任助教、内視鏡センターの筋野智久専任講師、内科学教室(消化器)の金井隆典教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
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哺乳類の腸は、常に体の外からやってくる食べ物や病原菌といった異物にさらされている。腸組織は皮膚や口腔内のように外界との境界にあたる組織で、栄養などの物質の取り込みとバリア機能を担う腸上皮細胞が層となって境界線を形成している。その境界線に存在するさまざまな免疫細胞は、異物に対して排除する働き(免疫応答)あるいは過度に反応しないように抑える働き(免疫寛容)をすることでバランスを取っている。
今回の研究で着目したCD4+CD8αα+細胞(DPIEL)は、腸の上皮層内に存在し、腸の炎症を抑制する役割を持つことが知られていたが、発生と維持に必要な因子については不明だった。特に哺乳類の細胞が生存していくには酸素が必要だが、腸管の中において酸素が少ない状態でどのように細胞が発生維持しているのかという観点での解析はなかった。
DPIEL<低酸素応答性遺伝子群の発現上昇<腸管上皮に到達<発現低下<分化
今回研究グループは、まず通常の飼育環境(腸内細菌が存在する環境)と無菌環境(腸内細菌が存在しない環境)で飼育したマウスの小腸で組織の酸素濃度を比較した。すると、腸内細菌が存在することで小腸の上皮層が低酸素状態となることを発見。さらに低酸素状態において、特に免疫抑制に働くDPIELが増加することがわかった。
また、腸管上皮内で増加するDPIELは他の細胞種よりも酸素とグルコースを消費せず、特に酸素消費における重要な因子であるミトコンドリアの形状が大きく異なっていることがわかった。以上より、腸管上皮内で増加するDPIELは腸内細菌により誘導される低酸素状態に適応する細胞集団であることがわかった。
次に、低酸素状態であることによって働く因子とその調節に関わる因子を欠損したマウスを調べ、DPIELの発生・維持に必要な遺伝子群を突き止めた。興味深いことに、DPIELは腸管上皮内に到達し分化する前に一度低酸素応答性の遺伝子群を上昇させ、その後低下させることで分化するという複雑系が存在することを見出した。
酸素化や低酸素応答の制御による新たな治療開発に期待
今回の研究を通して、腸内細菌の存在が小腸上皮内のDPIEL分化誘導、維持に好都合な低酸素環境を生み出していること、DPIELも他の免疫細胞とは異なる代謝調節により低酸素環境に適応していることが新たにわかった。「腸管上皮内にユニークに存在するDPIELの作用機序はいまだ不明だが、炎症を抑制することも報告されていることから、この成果は酸素化、低酸素応答を腸管内で制御することで特定の免疫細胞を教育、誘導するといった新しい治療法開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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