胆膵がん、予後改善が期待できる新規治療の開発は急務
聖マリアンナ医科大学は5月24日、膵/胆道がんにおける大規模なゲノムデータを用いた解析を行い、その結果を発表した。この研究は、同大臨床腫瘍学講座の梅本久美子講師、砂川優主任教授、同大学院医学研究科バイオインフォマティクス学分野の山本博幸大学院教授(同大消化器内科顧問医)とFoundation Medicine社が共同研究として実施したもの。研究成果は、「Journal of the National Cancer Institute」オンライン版に掲載されている。
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進行胆膵がんにおいては、殺細胞性の化学療法として一次治療を中心に開発が進んでいるが、二次治療以降の標準治療においてはその効果が限定的であり、胆膵がんに対して予後改善が期待できる新規治療の開発が急務である。進行固形がんにおいては近年、臓器横断的な分子標的治療薬の開発が行われている。次世代シーケンシング(NGS)が実臨床で用いられるようになり、NGSをベースとした包括的ゲノムプロファイリング(CGP)として「FoundationOne(R)CDx」は2017年に米国FDAにより承認され、日本でも2019年に固形がんに対して保険適用された。その後、NTRK1-3融合遺伝子およびMSI-Highを有する固形がん、BRCA1/2遺伝子変異を有する膵がん、FGFR融合遺伝子を有する胆道がんに対してそれぞれエヌトレクチニブ、ラロトレクチニブ、ペムブロリズマブ、オラパリブ、ペミガチニブが日本においても承認され、胆膵がんでもこれらの分子標的治療の有効性がいくつかの報告で示された。
研究グループは、以上より、これらの治療薬の標的となる遺伝子異常の頻度および新たな治療標的となり得る遺伝子異常について胆膵がんで評価することは臨床的に大きな意義があると考え、ゲノムプロファイルのビッグデータを用いて解析する研究を考案した。
解析対象は米国で実施されたCGPデータ進行膵がん1万6,913例、進行胆道がん3,031例
治療標的となる遺伝子異常の頻度および新規の治療標的として介入が期待できる遺伝子異常を検討するため、Foundation Medicine社が有する、進行胆膵がんにおいて米国の日常診療で実施された包括的ゲノムプロファイリングデータの解析を行った。進行膵がん1万6,913例および進行胆道がん3,031例における遺伝子異常の頻度を解析するとともに、40歳以上/以下、MSI-High/MSSもしくはTMB(high ≥10/low <10 Muts/Mb)の状態、その他ある特定の遺伝子異常の集団において層別化し解析を行った。
膵がんのKRAS野生型、胆道がんのTMB-Highなど特定の集団で、治療標的となる遺伝子異常の頻度が高い
その結果、BRCA2、BRAF、ERBB2、CDK12、PIK3CA、FGFR2、EGFRなどの遺伝子異常は、KRAS遺伝子野生型の膵がんにおいて頻度が高いことがわかった。胆道がんでは、ERBB2遺伝子増幅はTMB-Highの集団において高頻度に認めた(23.3% vs. 13.7%)。また、CDK12遺伝子再構成についてはERRB2遺伝子増幅を伴う胆道がんに高頻度に認めた。
40歳未満の膵がんではFGFR2遺伝子再構成(4%)、胆道がんではGATA6遺伝子増幅(11.1%)、BRAF遺伝子再構成(2.8%)、FGFR2遺伝子再構成(5.6%)を40歳以上に比較し高頻度に認めた。
研究により、進行胆膵がんにおいて、ある特定の遺伝子異常を認める集団においては、腫瘍における免疫回避に関わるバイオマーカーや標的遺伝子、新規に開発が期待できる遺伝子異常を検出することができた。「特に、KRAS遺伝子野生型膵がんやAYA世代の胆膵がんにおいては、積極的なCGPを行っていくことが臨ましいと結論づけられた」と、研究グループは述べている。
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・聖マリアンナ医科大学 Marianna Today