SCIDは根治的治療を行わないと生後1年以上の生存は望めない
国立成育医療研究センターは5月24日、新生児スクリーニングで発見し、国内で初めて生後早期からの酵素補充療法を開始した重度免疫不全症の赤ちゃんが無事退院したことを発表した。これは、同センター免疫科の内山徹氏、岡井真史氏、小野寺雅史氏、同小児がんセンターの坂口大俊氏、坂本淳氏らの臨床グループならびに新潟大学小児科の今井千速氏らの研究グループによるもの。
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重症複合免疫不全症(SCID)は、T細胞の欠損およびB細胞の異常によって生後早期よりウイルス、真菌(カビ)、細菌による重度の感染症に罹患する疾患。T細胞の欠損の原因となる遺伝子は、現在、20個程度が見つかっているが、いずれの疾患においても根治的治療の造血細胞移植を行わないと生後1年以上の生存は望めない。
また、造血細胞移植を行う場合でもすでに重度の感染症に罹患していると移植による副作用が強くなり、その成績は極端に低下する。このため、欧米では、正常Tリンパ球が産生される際に生じる環状DNAのTREC(T細胞受容体切除サークル)を測定する新生児スクリーニングを実施しており、SCIDの移植による生存率は飛躍的に改善している。一方、国内ではSCIDに対する公的スクリーニングは行っておらず、各自治体や関連団体、大学などが中心となり地域ごとで有料のスクリーニングが実施されているのが現状だ。
SCIDの中でもADA欠損症は酵素補充療法による治療が可能
SCIDの中でも唯一アデノシン・デアミナーゼ(ADA)欠損症は治療として酵素補充療法が存在し、造血細胞移植で最適なドナー(HLAが一致した血縁ドナー)が見つからない患者に対してはADA酵素補充療法を行うことで重度の感染症を防ぐことが可能。このため、米国では1990年より治療薬として承認されているが日本においては導入されていなかった(欧州はcompassionate useとして使用可能)。そこで、2016年より同センターが中心となって遺伝子組換え型ADAの治験を開始し、2019年に帝人ファーマ社よりレブコビ(R)(一般名:エラペグアデマーゼ)として販売された。酵素補充療法により患者はT細胞、B細胞の機能が回復し、重症感染症が予防可能となり移植による重度の副作用を軽減することができる。
ADA欠損症新生児に症状出現前に治療開始、6か月で無事退院、国内初症例
今回、研究グループは、原発性免疫不全症に対する新生児スクリーニングで発見した重度免疫不全症のADA欠損症新生児に対し、症状が出現する前に酵素補充療法を行った。その結果、患者の免疫力を回復させ、重度の感染症に罹患することなく出生後6か月で無事に退院させることができた。今回のように新生児スクリーニングで無症状のうちから酵素補充療法を開始した症例は国内初。患者は今後、出生地の医療機関の外来で酵素補充療法を継続して経過を観察していく予定だという。
SCIDに対する新生児スクリーニングのいち早い全国導入を希望
今回、新生児スクリーニングによるSCID患者の発症前診断の重要性とADA欠損症患者に対するADA酵素補充療法の重要性・有効性が改めて確認された。今後より多くのSCID患者に対しても同様の恩恵が受けれるよう、研究グループはいち早い新生児スクリーニングの全国導入を希望しており、令和2年12月25日に関係学会から厚生労働省に対して意見書を提出している。なお、研究グループは、ADA欠損症に対してはより迅速に確定診断を行えるよう新たな診断法を開発中だとしている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース