医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 糖尿病性末梢神経障害、ncRNAのMALAT1が進行抑制に不可欠な可能性-東京医歯大

糖尿病性末梢神経障害、ncRNAのMALAT1が進行抑制に不可欠な可能性-東京医歯大

読了時間:約 2分58秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年05月24日 AM10:30

感覚神経細胞の遺伝子発現制御を治療法開発の戦略として研究

東京医科歯科大学は5月21日、糖尿病マウスにヘテロ核酸を投与することで糖尿病性末梢神経障害における後根神経節のノンコーディングRNAを制御できることを示し、神経障害の表現型が増悪することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科脳神経病態学分野(脳神経内科)の横田隆徳教授、永田哲也プロジェクト准教授、小林正樹非常勤講師、宮下彰子大学院生によるもの。研究成果は、「Diabetes」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

糖尿病は、さまざまな組織・臓器を障害し合併症を起こすが、末梢神経障害は、網膜症、腎症と並んで三大合併症として知られている。糖尿病性末梢神経障害は、体中に張り巡らされている電線のような神経に起きる病気であり、神経の中でも感覚神経が強く障害されることが多く、患者に痛みなどの苦痛をもたらし生活の質(QOL)に影響する。糖尿病性末梢神経障害は、神経の末端から始まることが特徴で、手足がピリピリ、ジンジン痺れ、やけどのようにヒリヒリ痛むなどの異常感覚や疼痛を生じ、不眠になるなど睡眠にも影響する。治療せずに神経障害が進行すると、感覚が鈍くなり、足の怪我ややけどにも気づかず壊疽をおこし切断が必要なほど重大な合併症を生じることもある。

治療は、糖尿病として血糖値のコントロールが基本だが、それだけでは不十分で神経障害の進行抑制や再生を促進する必要がある。しかしながら、その病態は複雑で未だ明らかではなく、有効な治療法の開発に至っていない。そこで研究グループは、糖尿病によって後根神経節(DRG)にある感覚神経細胞がターゲットとされ、壊れて変性してしまうこと(感覚神経の変性)が病態の中核であることに着眼し、その感覚神経細胞でおきている遺伝子発現を制御することを治療法開発の戦略とした。

糖尿病マウスで長鎖ノンコーディングRNA「」をノックダウンし影響を検討

昨今、タンパク質をコードしないRNA()がさまざまな疾患の病態に関与していることが解明されつつある。長鎖ノンコーディングRNAの一つであるMALAT1は糖尿病性網膜症や腎症といった糖尿病合併症の発症と進行に極めて重要な役割を果たすことが注目されているが、末梢神経障害におけるMALAT1の役割は報告されていなかった。

そこで今回、研究グループは、MALAT1が、糖尿病性末梢神経障害の病態形成にどのような役割を果たしているかを明らかにしようと試みた。同研究室ではアンチセンス核酸(ASO)の送達効率を改善させたHDOの開発をしているが、今回DRGへの効率的な送達が見込まれるビタミンE(トコフェロール)を結合したヘテロ核酸(Toc-HDO)を用いてMALAT1をノックダウンし、糖尿病マウスの末梢神経系にどのような影響が出るかを検討した。

MALAT1ノックダウンで神経変性がより悪化、神経保護作用が判明

その結果、健常マウスに糖尿病を導入(ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウス)するとDRG感覚神経細胞のMALAT1の発現が有意に上昇すると判明。さらにToc-HDOを静脈内投与することにより、その発現を効果的に抑制(ノックダウン)することに成功した。MALAT1ノックダウンによる糖尿病マウスの表現型の変化として、熱および機械的刺激に対する侵害閾値の上昇、坐骨神経の伝導遅延といった感覚神経の機能悪化が見られ、同時に病理学的に核スペックルと呼ばれる核内構造体(遺伝子転写に重要)の損失に伴って感覚神経の細胞体の萎縮と軸索末端の変性(dying-back型変性)の促進が見られた。

この結果は、MALAT1が糖尿病ストレスを防御するために神経保護作用を有しているという重要な証拠を提示している。加えて、同研究で実行したHDOによるDRGを標的とした遺伝子制御法が糖尿病性末梢神経障害の有効な治療法開発の重要な端緒となると期待される。

後根神経節を標的としたヘテロ核酸による治療法開発に期待

今回の研究により、糖尿病性末梢神経障害で生じる神経変性に対する防御機能として、MALAT1が神経保護作用するという重要な役割が解明された。さらに、後根神経節神経細胞の遺伝子発現をヘテロ核酸のターゲットとしノックアウトした表現型を検討することが、糖尿病性末梢神経障害の病態解明に有効であったという動物実験例は初の報告となった。

糖尿病の発症率は年々増加しており、その合併症の一つである糖尿病性末梢神経障害では手足の痛みなどの辛い症状がでるにもかかわらず対症療法以外に確立した薬は開発されてこなかった。「HDOによる後根神経節を標的とした遺伝子制御法によって、近い将来に糖尿病性末梢神経障害を効果的に治療できるようになることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大