ANP、どの血管や細胞に働き血管拡張作用を発揮する?
国立循環器病研究センターは5月23日、心房性ナトリウム利尿ペプチドの降圧作用が、血管内皮細胞の受容体への結合を介して生じることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センター研究所・心不全病態制御部の徳留健室長、再生医療センターの大谷健太郎室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension」電子版に掲載されている。
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心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide:ANP)は、同センター研究所の松尾壽之名誉所長らが1984年に発見した心臓で産生・分泌されるペプチドホルモン。利尿・血管拡張等の生理作用を有している。ANPは日本において急性心不全治療薬(静注薬)として臨床応用されているほか、ANPの分解酵素阻害剤(内服薬)は、近年日本を含む世界100か国以上で慢性心不全治療薬として承認され、日本では高血圧治療薬としても承認されている。
ANPの降圧作用は主に血管拡張作用に依存するが、ANPが体の中のどの血管、どの血管構築細胞に作用することで血管拡張作用を発揮するのかこれまで不明だった。
ANPの血管拡張作用による降圧効果、血管平滑筋ではなく内皮細胞依存的だった
研究グループは、まずラット組織切片を用いて、ANPの受容体であるNatriuretic Peptide Receptor 1(NPR1)の発現部位を免疫組織染色によって調べた。血管は、最内側一層の血管内皮細胞および内弾性板を隔てた血管平滑筋層等から構成される。免疫組織染色の結果、NPR1は大動脈にはほとんど発現しておらず、腸間膜動脈や骨格筋組織動脈といった径の細い動脈の血管内皮細胞や血管平滑筋細胞、および毛細血管に発現していることがわかった。
次に研究チームは、血管内皮細胞および血管平滑筋細胞のどちらのNPR1がANPによる降圧作用に寄与しているかを、遺伝子改変した細胞特異的NPR1欠損マウスを用いて調べた。野生型マウスにANPを点滴静注すると、血圧は徐々に低下する。血管平滑筋細胞特異的NPR1欠損マウスでも、ANP投与によって野生型マウスと同程度の血圧低下を認めた。一方、血管内皮細胞特異的NPR1欠損マウスでは、ANPを投与しても血圧の低下は認めなかった。
今回の結果は血管内皮細胞のNPR1が、ANPによる降圧作用に重要であることを示すもの。従来、ANPは血管平滑筋のNPR1を介して降圧作用を発揮すると考えられていたが、血管拡張作用による降圧効果が内皮細胞依存的であることを示す結果となった。
血管内皮ANP-NPR1系、短期的・長期的な血圧制御に重要
血管内皮細胞から産生されて血管平滑筋の弛緩および血管拡張をもたらす因子に一酸化窒素がある。研究グループはANPと一酸化窒素の関係についても調べたが、ANPは血管内皮細胞における一酸化窒素産生に関与せず、また一酸化窒素合成酵素を欠損させたマウスにおいても血圧を野生型マウスと同程度に低下させた。そのため、ANPは一酸化窒素とは独立したメカニズムで降圧作用をもたらすことがわかったとしている。
最後に、血管内皮細胞特異的にNPR1を過剰発現させた遺伝子改変マウス(Tg)を作製。血管内皮ANP-NPR1系が長期的な血圧制御に及ぼす影響も調べた。その結果、Tgの収縮期血圧は野生型マウス(WT)よりも有意に低く、血管造影を行った結果、末梢動脈が有意に拡張していることが判明。血管内皮ANP-NPR1系が、短期的・長期的な血圧制御に重要であることが明らかになった。
どのような患者にANP生理作用を応用の薬剤が効果的か、今後明らかに
ANPの生理作用を応用した薬剤は、心不全や高血圧治療に応用されている。今回の研究では、その薬理作用の一端を明らかにしたと考えられる。一方で心不全や高血圧の病態は多様であり、どのような患者にANPの生理作用を応用した薬剤がより効果的なのか、今後明らかにしていく予定だと研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース