術後癒着予防のための従来素材は組織接着性や操作性などに課題
国立物質・材料研究機構(NIMS)は5月19日、温めて塗るだけで手術後の傷を治す医療用接着剤(ホットメルト組織接着剤)を開発したと発表した。この研究は、同機構機能性材料研究拠点ポリマー・バイオ分野の西口昭広主任研究員、田口哲志グループリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は「Acta Biomaterialia」オンライン版に掲載されている。
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癒着や出血、炎症、感染などの術後合併症は、臨床上の大きな課題である。例えば、術後癒着は手術創部と周辺の臓器が組織修復の過程で一体化する合併症であり、腸閉塞や不妊症、骨盤痛を引き起こし、術後の生活の質の低下や在院延長、再手術の原因となる。しかしながら、これまでの術後癒着を予防する医療材料では、組織接着性が低いこと、内視鏡下での操作性が低いこと、溶液の調製工程が必要であること、混合液ムラが生じることなどの課題があった。そのため、術後の合併症リスクを軽減し、組織接着性・生体適合性・操作性に優れた医療材料の開発が強く求められている。
体温でゲル化する新規バイオポリマーを合成
今回、研究グループは、ゼラチンのゾル-ゲル転移温度が制御可能な1液型ホットメルト組織接着剤を開発した。一般的に使用されてきたブタ皮ゼラチン(従来法)は、体温では液体であるため(ゾル-ゲル転移温度が32℃付近)、接着剤として使用できなかった。研究では、ブタ腱由来ゼラチンに任意の数のウレイドピリミジノン(UPy)基を導入し、分子間水素結合の数の増減によりその強さを人工的に調整可能な新規バイオポリマー(UPyゼラチン)を合成した。これにより、ゼラチンのゾル-ゲル転移温度を自在に制御することができ、加温によってゾル化するが、体温ではゲル化する「ホットメルト」特性を導入した組織接着剤が設計できた。
生体組織に強固に接着、動物実験で癒着防止を実証
同接着剤は、生体環境で安定なゲルを形成し、生体組織に強固に接着。また、体内で分解・吸収されるため、組織の修復後に再手術をする必要はない。さらに、ラット盲腸-腹壁癒着モデルを用いた動物実験では、同接着剤によって癒着が防止されることが明らかになり、術後癒着の防止へ応用できることが実証された。
研究グループは、「今後、開発した組織接着剤の医療材料への応用を目指し、前臨床試験や生物学的安全性試験を行うことで、実用化に向けた研究開発を進めていく」と、述べている。
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・国立物質・材料研究機構(NIMS) プレスリリース