複数施設の手術検体を用いて分子バイオマーカーモデルを開発、治療前に採取の血液検体で検証
東京医科歯科大学は5月20日、食道扁平上皮がんに対する術前化学療法の効果を治療前に予測するリキッドバイオプシーモデルを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科消化管外科学分野の絹笠祐介教授、徳永正則准教授、奥野圭祐元助教(消化管外科学分野より米国シティオブホープ ナショナルメディカルセンターに留学中)ら、米国シティオブホープ ナショナルメディカルセンター ベックマン研究所のAjay Goel教授、熊本大学大学院消化器外科学の馬場秀夫教授、名古屋大学大学院消化器外科学の小寺泰弘教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Surgery」オンライン版に掲載されている。
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食道扁平上皮がんの治療は、手術(食道切除とリンパ節郭清)が中心になるが、手術を先行した治療では再発が多く、治療成績が悪いことが長年の課題だった。近年、複数の大規模臨床試験の結果、手術に先行して抗がん剤治療(術前化学療法)を行うことで生命予後が改善することが証明され、術前化学療法は食道扁平上皮がんの標準治療として行われるようになった。しかし、手術で切除した検体を術後に検証すると、約半数程度にしか効果を示しておらず、完全にがん細胞が消失しているのは20~30%程度。加えて、約半数程度の患者に術前化学療法中に重篤な副作用が出現することがわかっている。治療を開始する前に術前化学療法の効果を予測することは、患者個人それぞれに最適な治療を提供すること(個別化医療)につながり、結果として患者1人1人の生命予後を改善することが期待されている。
近年、さまざまな分子バイオマーカーを用いた術前化学療法の効果予測に関する研究が世界中で行われている。しかし、多くの研究が単一施設における研究で、複数施設で適用できるか検証されていない。また、手術で切除した組織検体を使用しており、治療前に効果を予測可能かどうかが明らかにされていなかった。そのため、実際の治療に応用されている分子バイオマーカーはない。
今回の研究では、複数施設の手術検体を用いて分子バイオマーカーのモデルを開発。最終的に治療前に採取した血液検体を使用して検証を行うことで、治療開始前の採血検査を用いて食道扁平上皮がんの術前化学療法の効果を予測できるリキッドバイオプシーモデルを開発した。同研究は、これまでの研究の課題を克服し、より実臨床への応用を目指して行われた。
mRNA/miRNA/臨床因子の組み合わせにより効果予測モデルを開発
今回の研究では、3種類のメッセンジャーRNA(MMP1、LIMCH1、C1orf226)と4種類のマイクロRNA(miR-145-5p、miR-152、miR-193b-3p、miR-376a-3p)の分子バイオマーカー7個と3種類の臨床因子(腫瘍の大きさ、腫瘍の位置、リンパ管侵襲の有無)を組み合わせて、食道扁平上皮がんの術前化学療法の効果予測モデルを開発した。
このモデルから算出されたスコアは、手術検体を用いた解析において、術前化学療法の効果なしの食道扁平上皮がんで有意に高くなっており、さらにスコアが高い食道扁平上皮がんは有意に再発しやすいことを見出した。
治療前に採取した血液での検証、AUC0.78、感度70%、特異度71%
また、開発したモデルをリキッドバイオプシーに応用するために、治療開始前に採取された血液サンプルを用いて検証した。その結果、このモデルを使用することでArea under the curve(AUC)0.78、感度70%、特異度71%で、術前化学療法に効果がない食道扁平上皮がんを予測することが可能であり、このモデルは現在実際の臨床で使用可能な既存の臨床学的因子よりAUCが高く、より精度が高く術前化学療法の効果を予測することが可能であることがわかったとしている。
モデル応用による食道扁平上皮がん個別化医療の実現に期待
同研究では、複数施設の手術検体を用いて分子バイオマーカーのモデル開発を行い、最終的に治療前に採取した血液サンプルを使用して検証を行うことで、食道扁平上皮がんの術前化学療法の効果を予測できるリキッドバイオプシーモデルを開発した。同研究成果により、開発したモデルを応用した食道扁平上皮がんの個別化医療の実現が期待される、と研究グループは述べている。
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