早期発見が難しいccRCC、有効なバイオマーカーが望まれる
岩手医科大学は5月18日、主要な腎細胞がんである淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)患者50人と対照群50人の全血由来DNAにおけるDNAメチル化解析を行い、ccRCCに関連してDNAメチル化状態が変化するCpG部位を探索したところ、染色体5番のPCBD2/MTND4P12遺伝子上に位置する6か所のCpG部位がccRCCの新規DNAメチル化バイオマーカーとなり得ることを発見したと発表した。この研究は、同大いわて東北メディカル・メガバンク機構生体情報解析部門の大桃秀樹特任准教授、同部門長の清水厚志教授、慶應義塾大学医学部病理学教室の金井弥栄教授、新井恵吏准教授、国立がん研究センター中央病院の藤元博行副院長、同病院遺伝子診療部門の吉田輝彦部門長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Epigenetics Communications」にオンライン掲載されている。
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腎細胞がん(renal cell carcinoma:RCC)は、腎臓の実質に悪性細胞が発生したもので、全がんの4%、腎臓がんの80%を占めている。早期RCCの5年生存率は約93%だが、転移性RCC患者の5年生存率は12%に留まることから早期発見が重要だ。しかしながら、RCC発症初期には大きな症状はなく、健康診断や高血圧、糖尿病、肥満など他の病気の検査で偶然に発見されることが多い特徴をもつことからも早期発見は難しいとされている。RCCの70%以上は淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)に分類される。そのため、ccRCCを早期に診断する有効なバイオマーカーも見つけることができれば、多くのRCC患者を早期に発見、治療することにつながることが期待される。
TB-seqによるエピゲノムワイド関連解析でDNAメチル化バイオマーカーを探索
これまでにゲノムワイド関連解析(Genome-wide association study:GWAS)メタアナリシスによって、RCC発症に関わる遺伝子が複数同定されているが、遺伝的背景で説明できるRCCは3~5%と言われている。一方、実際のRCCの発症は、喫煙、飲酒、肥満などの非遺伝的要因(環境要因)に起因して50歳以降に発症することが多いとされている。近年、非遺伝的要因(環境要因)によりDNAのメチル化状態が変化し、それに伴い遺伝子発現も変化することで疾患発症につながっていることが明らかになっており、DNAメチル化は新規バイオマーカーとして期待されている。
そこで今回、研究グループは、ccRCC患者群およびその患者群と性別・年齢をマッチングさせた健常対照者群の全血由来DNAを用いて、ターゲットバイサルファイトシーケンス法(Targeted-bisulfite sequencing:TB-seq)によるDNAメチル化解析を行い、エピゲノムワイド関連解析(Epigenome-wide association study;EWAS)によってccRCCに関連するDNAメチル化バイオマーカーを探索した。
ccRCCで5番染色体PCBD2/MTND4P12遺伝子の6か所のCpGが有意に低メチル化
研究グループは、探索実験としてまず、国立がん研究センターバイオバンクの50人のccRCC患者(ccRCC群)および、ccRCC患者と性別・年齢をマッチングさせたTMM計画地域住民コホート研究参加者50人(対照群)の全血由来DNAを用いて、TB-SeqによるDNAメチル化解析およびEWASを実施。その結果、5番染色体のPCBD2(pterin-4 alpha-carbinolamine dehydratase 2)遺伝子とMTND4P12(mitochondrially encoded NADH: ubiquinone oxidoreductase core subunit 4 pseudogene 12)遺伝子上に位置する6か所のCpG部位において、ccRCC群で有意10%以上低メチル化していることが明らかになった(p<1.59×10-8)。
次に、その得られた結果に対する検証実験として、先のccRCC群や対照群とは別のccRCC患者と対照群それぞれ48人ずつの全血由来DNAを、同センターバイオバンクとTMM計画地域住民コホート研究参加者から準備し、TB-SeqおよびEWASを実施。その結果、同様にPCBD2遺伝子およびMTND4P12遺伝子上に位置するCpG部位のDNAメチル化レベルが、ccRCC群において対照群と比べて有意に10%以上低下していた(p<3.42×10-8)。
6か所のメチル化レベル合計のAUC-ROCは探索実験0.922、検証実験0.871と高精度
さらに、PCBD2/MTND4P12遺伝子上の6か所のCpG部位がccRCCのバイオマーカーとして有用であるかを調べるために、臨床検査やバイオマーカーの有用性を検討する手法であるROC曲線による解析を実施。その結果、6か所のCpG部位の個々のDNAメチル化レベルよりも、6か所のDNAメチル化レベルの合計を用いた方がccRCCのバイオマーカーとしての有用性が高いことが示された。その有用性を示すAUC-ROC値(Area under the receiver operating curve)は、探索実験ではAUC-ROC=0.922、検証実験でAUC-ROC=0.871と共に高い有用性が示された。
以上の結果から、PCBD2/MTND4P12遺伝子上の6か所のCpG部位のDNAメチル化レベルの合計は、ccRCCに対する新規DNAメチル化バイオマーカーとして利用できる可能性が示唆された。
臨床応用に向け研究推進
今回、DNAメチル化キャプチャ法を用いたDNAメチル化関連解析により、ccRCCに対する血液由来DNAに基づいた新規DNAメチル化バイオマーカー候補が同定された。研究グループは今後、同定したccRCCに対するDNAメチル化バイオマーカーが臨床応用できるよう、TMM計画で進めている前向きコホート研究の参加者などを対象として、未病または発症早期のccRCCを検出可能か、また腎摘手術後の予後マーカーとしても利用可能かなど調べたいとの考えを示している。また、「本研究は日本人を対象とした研究成果であるため、他の民族においても有用であるか検証が期待される」と、述べている。
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