新規SGLT2阻害薬処方の糖尿病約2万5,000症例を解析
東京大学は5月18日、国内の大規模なレセプトデータベースを用いて、SGLT2阻害薬の6種類の薬剤間で、心不全や心筋梗塞、脳卒中などの循環器疾患の発症率が同等であることを示したと発表した。この研究は、同大小室一成教授、金子英弘特任講師、康永秀生教授、岡田啓特任助教、鈴木裕太研究員、佐賀大学の野出孝一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cardiovascular Diabetology」に掲載されている。
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SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として開発され、大規模臨床試験において循環器疾患(とりわけ心不全)の発症率を低下させることが示された。これに伴い、臨床現場におけるニーズは高まり、SGLT2阻害薬の処方数は急増している。一方で、個々のSGLT2阻害薬の循環器疾患に対する保護効果の大きさは、これまでの大規模臨床試験において必ずしも一貫していない。また、いくつかの研究では、主にSGLT2選択性の違いにより、個々のSGLT2阻害薬間で薬理効果や転帰(治療後の症状の経過)に差が生じる可能性があることが報告されている。しかし、大規模な疫学データを用いて、SGLT2阻害薬の薬剤間で循環器疾患の発症リスクを比較した研究は少なく、SGLT2阻害薬の循環器疾患に対する保護効果が、クラスエフェクトと考えて良いのかについては議論が分かれるところだった。
SGLT2阻害薬は、日本では2014年に初めて保険適用され、現在では6種類のSGLT2阻害薬が市販されている。今回、新たにSGLT2阻害薬を処方された約2万5,000人の糖尿病症例を大規模なリアルワールドデータを用いて検討し、個々のSGLT2阻害薬の薬剤間で心不全、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動の発症リスクを比較した。
今回の研究では、2005年1月~2020年4月までにJMDC Claims Databaseに登録され、登録 4か月以上が経過してから糖尿病に対してSGLT2阻害薬が処方され、循環器疾患や透析治療歴のない2万5,315症例(年齢中央値52歳、83%が男性、HbA1c中央値7.5%)を解析対象とした。6種類のSGLT2阻害薬について、それぞれ、エンパグリフロジン(empagliflozin)5,302症例、ダパグリフロジン(dapagliflozin)4,681症例、カナグリフロジン(canagliflozin)4,411症例、それ以外のSGLT2阻害薬は1万921症例(イプラグリフロジン(ipragliflozin)5,275症例、トホグリフロジン(tofogliflozin)3,074症例、ルセオグリフロジン(luseogliflozin)2,572症例に対して処方されていた。
心不全、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動の発症リスク、各薬剤間で同等
平均観察期間814±591日の間に、855例の心不全、143例の心筋梗塞、815例の狭心症、340例の脳卒中、そして139例の心房細動が記録された。年齢や性別、併存疾患やその他の糖尿病治療薬で補正した解析により、エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害薬の間で、心不全、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動の発症リスクはいずれも同等だった。
この結果は、循環器疾患におけるSGLT2阻害薬の効果が薬剤間で共通している「クラスエフェクト」であることを示唆している。
SGLT2阻害薬の使用における重要なリアルワールドエビデンスになることに期待
今回の研究では、JMDC Claims Databaseの登録症例が主に中規模以上の企業に勤務するビジネスマンとその家族であることによる選択バイアスの可能性など、今後考慮が必要な項目もある。一方で、糖尿病や循環器疾患に対する主要な薬剤としてSGLT2阻害薬の注目が高まる中で、SGLT2阻害薬の各薬剤間における循環器疾患の発症リスクが同等である可能性を、大規模なリアルワールドデータで示したことは、これまでエビデンスの乏しかった臨床の現場に貴重なエビデンスを提供するに至る結果となったとしている。
同研究結果が、糖尿病や循環器疾患の予防・治療に役立ち、生活習慣病をもつ患者のQOL改善や健康寿命の延伸につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース