男性より女性で乾癬の罹患率・重症度「低」、その分子メカニズムは不明だった
京都大学は5月17日、エストラジオールが、好中球やマクロファージなどの免疫細胞の活性化を制御し、乾癬において抑制作用を発揮していることを動物モデルで突き止めたと発表した。この研究は、同大医学研究科の足立晃正助教(現:東京都立墨東病院)、本田哲也講師(現:浜松医科大学教授)、椛島健治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」にオンライン掲載されている。
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乾癬は、アトピー性皮膚炎とならぶ代表的な慢性炎症性皮膚疾患。特に欧米において頻度が高く、全世界で1%ほどの人口が罹患していると推定されている。日本にも多くの乾癬患者が存在し、皮膚炎症で苦しんでいる。これまで、乾癬では女性は男性にくらべて罹患率、および重症度が低いと報告されてきた。しかし、その詳細な分子メカニズムは不明だった。研究グループは、この機序として女性ホルモンに着目し、今回の研究を開始した。
乾癬モデルマウス、卵巣除去で皮膚炎増悪、エストラジオール補充で増悪抑制
まず雌マウスの卵巣を除去し、女性ホルモンが産生できない状態を人工的に作った。次にそのマウスに薬物により乾癬炎症を誘導した。その結果、卵巣除去マウスでは、卵巣を除去していないマウスにくらべ、皮膚炎症が著しく増悪した。一方、卵巣除去マウスに女性ホルモンの一種であるエストラジオールを補充すると、皮膚炎症の増悪は認められなかった。このことから、エストラジオールはなんらかの機序により乾癬炎症に抑制的に作用していると考えられた。
エストラジオール、好中球とマクロファージの機能を制御して炎症抑制
乾癬は免疫細胞の過剰活性化がその発症に重要であることがわかっている。研究グループは、エストラジオールが免疫細胞の活性化を制御することで乾癬炎症を抑制している可能性を考え、エストラジオールの作用標的細胞を検討。その結果、エストラジオールの標的細胞として、好中球とマクロファージを同定した。好中球とマクロファージにエストラジオールを作用させると、それらの細胞の活性化が抑制された。また、好中球やマクロファージにエストラジオールが作用できないように遺伝子改変したマウスでは、エストラジオールによる皮膚炎症抑制効果は認められなくなった。以上から、エストラジオールは好中球とマクロファージの機能を制御することで、乾癬炎症の内在性抑制因子として機能していることが明らかとなった。
今回の研究により、女性ホルモンの一種であるエストラジオールが乾癬の抑制因子として作用しうることが解明され、女性において乾癬の罹患率や重症度が低くなる理由の一部が解明された。これは、女性ホルモンの新たな生理機能の理解と、乾癬における新たな創薬標的を考える上で重要な意義をもつと考えられる成果だ。「現在は動物モデルでの検討結果であるため、今後ヒトでも同様の作用が認められるかを確認する必要があるが、同研究結果は、エストラジオールに着目した乾癬の新たな治療・予防戦略に応用できる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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