心不全・がん・心房細動の3つが合併した場合の、心不全患者への影響は?
東北大学は5月17日、同大主催の第二次東北慢性心不全登録研究に登録された心不全患者データを解析し、がん既往歴があり心房細動を合併した心不全では血栓症と出血リスクが高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の安田聡教授、後岡広太郎准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「ESC Heart Failure誌」にオンライン掲載されている。
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日本における死因のうち、第1位はがんで、第2位が心不全を含む心疾患。世界的に見ると死因の第1位が心疾患で、がんも上位に入っている。心不全は、心臓の機能が低下することによって全身に十分な血液・酸素を供給できずに、呼吸困難・倦怠感・浮腫などの症状が出現する疾患で、治療経過があまり良くないことも知られている。
最近の研究から、心不全とがんはお互いに発症の危険因子・治療経過不良の予後因子であることが明らかになっていた。心不全とがんでは、喫煙や食事内容といった生活習慣等が共通した危険因子であり、それらの発症に慢性的な炎症が関わっていることが知られている。さらに、心不全とがんは、不整脈のひとつである心房細動の発症につながる危険因子であることも明らかとなっている。一方で、心不全・がん・心房細動の3つが合併した場合、心不全患者の寿命や生活の質にどのように関連するか不明だった。また、心不全・がん・心房細動の各々で、血栓が生じる確率が増えることが知られており、血栓を予防するための抗血栓療法が必要となる。一方で出血の危険も増加し、治療が難しくなることが少なくない。しかし、これまで抗血栓療法と治療経過の実態は不明だった。
CHART-2研究データベースの心不全患者4,876人を解析
今回研究グループは、東北大学が行う第二次東北慢性心不全登録研究(CHART-2研究)のデータベースを用いて、4,876人の心不全患者(平均年齢:69歳、女性:32%)を対象に研究を実施。がん既往歴の有無と心房細動の有無から4群に分類し、心不全におけるがんの既往歴と心房細動が脳卒中・全身塞栓症・大出血におよぼす影響について解析を行った。
特に75歳を越える高齢者・虚血性心臓病ありでリスク高、4割は抗凝固療法なし
研究の結果、がん既往歴があり心房細動を合併している心不全症例では脳卒中・全身塞栓症・大出血リスクが高いことが判明。特に、75歳を越える高齢者や、狭心症・心筋梗塞といった虚血性心臓病をもつ患者において、脳卒中・全身塞栓症・大出血リスクが高くなることがわかった。
がん既往歴と心房細動を合併する患者では、塞栓症を発症するリスクが高い一方で、そのうち4割の患者が、抗凝固(血栓予防)療法を受けていなかった。この結果より、出血リスクが高いため、抗凝固薬が適切に投与されていなかったことが関与した可能性もあることが示唆された。
がん既往歴あり心房細動合併の心不全症例、適切な抗血栓療法に関する証拠を集める必要
今回の研究により、がん既往歴があり、心房細動を合併している心不全症例では、脳卒中・全身塞栓症・大出血の危険性が高いことが示された。特に75歳を越える高齢者や虚血性心疾患を有する場合には、その関係性が顕著だった。
一方で、その内の4割に近い症例では、適切に抗凝固治療を受けていなかったことが判明。がん既往歴があり心房細動を合併した心不全症例において、適切な抗血栓療法に関する証拠を集める必要があると示唆された、と研究グループは述べている。
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