原因遺伝子MECP2は特定されているものの、病理・病態メカニズムは不明点が多い
名古屋大学は5月13日、レット症候群モデルマウスの脳における構造異常を新たに特定したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の辻村啓太特任講師(名古屋大学高等研究院兼務)、赤羽裕一特別研究学生(旭川医科大学より出向)、大学院医学系研究科の夏目淳特任教授ら、千葉大学大学院医学研究院の塩浜直助教、実験動物中央研究所の小牧裕司博士、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院のEmi Takahashi博士、旭川医科大学の高橋悟准教授、順天堂大学医学部の青木茂樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Neuroscience」に掲載されている。
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発達障害・精神疾患は、世界的にも罹患率が高く社会的・経済的負担が問題となっており、病態の解明や診断・治療法の開発が求められている。レット症候群は、X染色体上に存在するMECP2遺伝子の変異により発症する重篤な発達障害。女児1万人から1万5,000人に1人の頻度(男児は胎生致死)で発症する、指定難病だ。レット症候群患者は重度の知的能力障害(ID)や、自閉スペクトラム症(ASD)、てんかん、運動機能障害、呼吸性障害など多様な神経症状を示す。
レット症候群の原因遺伝子であるMECP2遺伝子の異常は、同じく重い発達障害を呈するMECP2重複症候群や、ID、ASD、認知障害、統合失調症などの種々の発達障害・精神疾患の発症にも寄与することが明らかになっている。そのため、レット症候群の病理や病態メカニズムを解明することは、幅広い発達障害や精神疾患の理解に繋がると期待されている。原因遺伝子MeCP2を欠損したマウスはレット症候群患者にみられる多くの表現型を示すことから、レット症候群モデルとしてこのマウスを用いた多くの研究が世界中で行われている。しかし、レット症候群はMeCP2遺伝子の変異が原因で発症することはわかっているものの、MeCP2遺伝子の変異によりどのように重篤な発達障害が引き起こされるのかという病理・病態メカニズムについては不明な点が多く残されている。
最新のMRIでモデルマウスの脳を調べ、複数の脳領域に特異的な体積減少を発見
研究グループは、これまでにレット症候群の病態メカニズムの一端を明らかにしてきた。しかし、MeCP2遺伝子の異常がどのような脳の構造変容を引き起こすのか詳細はわかっていなかった。
そのため、同研究では、最新の磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)技術を用いて、MeCP2遺伝子を欠損したレット症候群モデルマウスの脳全体の構造変容を調べた。また、高解像度の動物用MRI撮像装置を用いて、レット症候群モデルマウスの構造MRI画像を撮像・取得し、異なる2種類の最新の解析技術により段階的に脳構造の変化の詳細を調査した。
その結果、正常マウス脳と比較して、レット症候群モデルマウス脳における大脳皮質体性感覚野の複数の特定領域や嗅内野の特定領域の顕著な体積減少に加え、全体の脳体積で補正した際に複数の脳領域においてレット症候群モデルに特異的な体積減少を見出した。
症状と関連する複数の脳領域の異常な左右差も特定、診断等への応用に期待
加えて、詳細な脳構造解析結果を用いて各脳領域の左右差を解析。この左右差解析により、レット症候群モデルマウス脳において症状と関連する複数の脳領域の異常な左右差を特定することに成功した。
以上のように今回、最新のMRI技術により、レット症候群モデルマウスにおいてこれまで報告されていなかった新規の脳領域の変容が特定された。MRIは臨床現場でも広く普及しているため、今回の研究より得られた知見は速やかにレット症候群患者に適用され、レット症候群の診断や検査に応用されることが考えられるという。
また、種々の発達障害および精神疾患の発症に深く関与するMeCP2遺伝子の異常により引き起こされる脳の構造異常が明らかになった。このことから同研究成果は、広範な発達障害・精神疾患の診断や治療法の開発へと波及されることが期待される、と研究グループは述べている。
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