非B・非C型肝細胞がん113例の切除がん組織を解析
日本医療研究開発機構(AMED)は5月16日、脂肪滴を蓄えた脂肪含有肝細胞がんが免疫疲弊を誘導し、抗腫瘍免疫から逃れるメカニズムを見出した研究成果を発表した。この研究は、大阪大学医学部附属病院の村井大毅医員、大学院医学系研究科の小玉尚宏助教、竹原徹郎教授(消化器内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「HEPATOLOGY」に掲載されている。
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肝がんは、WHO統計で死亡数3位(約83万人)のがんである。日本国内においても年間死亡数は2万5,000人に達し、5年生存率が35.8%と報告され、肝がんの90%以上を占める肝細胞がんは5年再発率が70~80%に達する難治性がんであることが知られている。
進行した症例に対しては薬物療法が行われるが、近年さまざまな薬剤が開発され、第一選択の抗PD-L1抗体/抗VEGF抗体の複合免疫療法(アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法)を中心に、その他マルチチロシンキナーゼ阻害剤など計6種類の治療選択肢が存在する。一方、いずれの治療薬も腫瘍の消失/縮小効果が得られる患者は3割未満と低いことが問題となっている。また、多くは肝硬変を背景に発症するため、肝予備能の低下によりこれらの薬剤を全て使い切れる患者も多くない。生命予後の改善には、患者ごとに最適な薬剤を選択する「個別化医療」が重要であり、その実現には各薬剤の治療効果予測バイオマーカーの開発が喫緊の課題だった。
研究グループは、近年急速に増加している非B・非C型肝細胞がんに注目し、外科的切除を受けた113例の切除がん組織を用いてトランスクリプトーム解析とゲノム解析を実施した。これらの情報に基づいてがん免疫微小環境を解析し、臨床病理学的因子との関連を検討した。
脂肪含有肝細胞がんでは免疫細胞に疲弊が生じ、腫瘍促進的な免疫微小環境を形成
その結果、がん細胞に脂肪滴貯留を認める脂肪含有肝細胞がんにおいては、腫瘍内に強い免疫細胞浸潤を認める一方、浸潤した免疫細胞に疲弊が生じていることを発見した。また、空間的トランスクリプトーム解析により、脂肪含有肝細胞がんではM2マクロファージやがん関連線維芽細胞などが疲弊細胞傷害性T細胞の近傍に存在し、腫瘍促進的な免疫微小環境を形成していることを見出した。
パルミチン酸が肝がん細胞の膜表面でPD-L1発現を増加
続いて、リピドミクス解析により脂肪含有肝細胞がんでは飽和脂肪酸の一種であるパルミチン酸が増加していることを同定した。さらに、肝がん細胞株を使用した実験でパルミチン酸が肝がん細胞の膜表面におけるPD-L1分子の発現を増加させ、またパルミチン酸を添加した肝がん細胞が共培養した線維芽細胞やマクロファージを腫瘍促進的な形質に変化させることを明らかにした。
MRIで脂肪含有肝細胞がんと診断された患者、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法の効果が良好
最後に、脂肪含有肝細胞がんはMRI画像により同定が可能であり、MRIで脂肪含有肝細胞がんと診断された患者は、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法の効果が良好となることを示した。
複合免疫療法の治療効果を事前に予測することで、さまざまな薬物療法の選択肢の中からより最適な薬剤選択を行うことが可能となり、進行肝細胞がん患者の生命予後改善に寄与することが期待される。また、MRI検査は肝細胞がんの診断目的に実施されることから、1度の検査で非侵襲的に複合免疫療法の治療効果を予測できる点で、患者に優しいバイオマーカーとなることが期待される。「さらに、パルミチン酸を介した肝がんの免疫逃避機構を標的とした治療薬開発につながることも期待される」と、研究グループは述べている。
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・日本医療研究開発機構(AMED)プレスリリース