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先天性甲状腺機能低下症、発症に関わるゲノム領域を同定-成育医療センターほか

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2022年05月16日 AM10:45

主因である甲状腺形成異常が生じるメカニズムは不明点が多かった

国立成育医療研究センターは5月13日、先天性甲状腺機能低下症を対象としたゲノム解析研究を行い、胎児期の甲状腺の形成に影響を与えるゲノム領域が2番染色体に存在することを世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同センター分子内分泌研究部の鳴海覚志室長、慶應義塾大学医学部小児科の長谷川奉延教授、ドイツのシャリテ・ベルリン医科大学のハイコ・クルーデ教授を中心とした国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Human Molecular Genetics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

甲状腺は頸部にある臓器で、甲状腺ホルモンを合成する役割を担っている。甲状腺の臓器形成異常である甲状腺形成異常は、先天性甲状腺機能低下症と呼ばれる生まれつき甲状腺ホルモンを作ることができない疾患を引き起こす。甲状腺ホルモンは細胞の活性化状態を調節する働きがあるため、未診断の先天性甲状腺機能低下症では子どもの正常な成長、発達が阻害される。先天性甲状腺機能低下症はさまざまな生まれつきの子どもの病気の中でも特に重要なものと位置づけられており、世界中の多くの国では新生児マススクリーニングの仕組みが整備され、出生する全ての新生児の血液を分析することで先天性甲状腺機能低下症の有無をチェックしている。しかし、このような臨床的重要性にかかわらず、先天性甲状腺機能低下症の主因である甲状腺形成異常の発症メカニズムはほとんどわかっていなかった。

日本人患者142人を対象にGWAS実施、2番染色体上に発症リスク領域を発見

今回、研究グループは、日本人の甲状腺形成異常患者142人について約66万か所の一塩基多型()の配列を調べ、その配列情報を元とした遺伝型インピュテーション手法により約300万か所のSNPの推定配列を取得した。この患者に由来する遺伝情報を東北メディカル・メガバンク計画で集められた日本人の一般住民約8,300人の遺伝情報と比較するゲノムワイド関連解析()を行い、甲状腺形成異常患者に特徴的なSNPを調べた。その結果、2番染色体に疾患発症のリスクとなるゲノム領域が存在することがわかった。さらにドイツ人甲状腺形成異常患者80名においてこの2番染色体のゲノム領域と疾患発症の関連性を検証し、日本人患者が持つ特徴がドイツ人患者でも同様に見られることを確認した。

GWASで同定される疾患発症への効果の強さは「オッズ比」と呼ばれる疾患へのかかりやすさをあらわす数値で表現される。これまでのGWAS研究ではオッズ比1.1~1.2程度の弱い効果の観察が大半だが、今回の研究では甲状腺形成異常発症に対する効果がオッズ比2.2と高い数値を示した。また、甲状腺形成異常を細かく分類すると甲状腺無形成、甲状腺低形成、異所性甲状腺(甲状腺の位置異常)の3つのタイプがあるが、タイプ別の関連解析では甲状腺無形成と異所性甲状腺ではオッズ比3.0~3.1とさらに高い数値を示したのに対し、甲状腺低形成ではこのゲノム領域が疾患とは関連していなかった。このことから、「甲状腺無形成と異所性甲状腺は最終的な甲状腺の状態にこそ違いがあるが発症メカニズムは共通している」「甲状腺低形成と無形成は類似したタイプと思われてきたが、発症メカニズムが異なっている」という2点を推測することが可能となった。

Wntシグナル経路の過剰な活性化が胎児期の甲状腺形成を妨げる可能性

研究グループはさらに、ゲノムの機能領域の解明を目指したENCODEプロジェクトや遺伝子型-組織発現(GTEx)プロジェクトなどのゲノム研究データベースを活用し、発見したゲノム領域が甲状腺の形成に影響を与えるメカニズムを調べた。その結果、疾患リスクに関わるSNP遺伝型が甲状腺におけるフリズルド5とサイクリンY様タンパク質1の発現量増加と関連することがわかった。この2分子はいずれもWntシグナル経路の構成因子であり、器官形成期におけるWntシグナル経路の過剰活性化が正常な甲状腺形成を阻害する可能性が考えられた。

甲状腺形成におけるWntシグナル経路の重要性を示した同研究の知見は、甲状腺形成異常を再現するような動物モデルの作出などの基礎研究の計画に役立てられることが期待できる。また、甲状腺以外にも臓器形成異常を起こすさまざまな臓器があるが、これらの臓器形成異常の一部では、GWAS法が病態解明の突破口を開く可能性があることがわかった。研究グループは、「患者数の少ない先天性疾患の発症メカニズムを効果的に行うためには、疾患登録システムや生体試料保存などの整備をより一層すすめてゆく必要がある」と、述べている。

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