治療抵抗性うつ病への有効性が実証されているrTMSの維持療法としての有効性は?
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は5月13日、治療抵抗性うつ病への反復経頭蓋磁気刺激療法(repetitive transcranial magnetic stimulation: rTMS)による維持療法に関する多施設共同研究を、医師主導臨床研究(先進医療B)で実施することを発表した。この研究は、NCNP病院の鬼頭伸輔精神診療部長・臨床心理部長(併任)らの研究グループによるものだ。
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うつ病は再燃・再発しやすい疾患であり、急性期治療に引き続く治療戦略が大切だ。特に、薬物療法が効かない治療抵抗性うつ病では、再燃・再発を防ぐための連続・維持療法(以下、維持療法)の確立が喫緊の課題といえる。
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)は、非侵襲的に脳皮質を刺激し興奮性を変化させる技術で、複数の臨床試験やメタ解析から治療抵抗性うつ病への有効性が実証されている。日本においても、薬物療法が奏効しないうつ病への治療選択肢としてrTMS療法が導入され、最大6週間まで保険診療として実施することができる。一方、急性期6週間のrTMS療法後の維持療法については、十分検証されていないのが実情だ。
急性期rTMS療法の長期効果を調べたメタ解析(18試験、732人のうつ病患者を対象)では、rTMS療法の長期効果に寄与する因子として、維持rTMS療法を受けていることが示され、急性期rTMS療法後の再燃・再発を防ぐための治療選択肢として、維持rTMS療法が有用であることを示唆している。
鬼頭精神診療部長らの研究グループは予備的研究として、治療抵抗性うつ病患者に週5日6週間の急性期rTMS療法を行い、寛解に至った患者に対して12か月間の維持rTMS療法を実施。rTMSによる維持療法を導入することで12か月後も寛解を呈しており、維持rTMS療法が有用である可能性を報告している。
中等症以上の成人うつ病患者に維持rTMS療法を行い、再燃・再発、うつ症状の増悪を抑制するか検証
今回の多施設共同研究では、抗うつ薬による薬物療法に反応しない中等症以上の成人うつ病を対象とし、急性期rTMS療法に反応あるいは寛解した患者に対して、rTMSによる維持療法を行い、うつ病の再燃・再発やうつ症状の増悪を抑制するか否かを明らかにする。なお、急性期rTMS療法(3~6週間)は保険診療として行い、同研究で有効性検証を行う維持rTMS療法(12か月間)は先進医療Bとして実施する。
対象者は、rTMS適正使用指針に準拠し、急性期rTMS療法によって、反応もしくは寛解した18歳以上で、維持rTMS療法を希望する場合、治療スケジュールを遵守する意思を有する患者。妊娠している患者、希死念慮の著しい患者、急性期rTMS療法で重篤な有害事象が発生した患者、研究代表医師・研究責任医師が対象として不適当と判断した患者は除外される。
300人を対象に維持期3か月、6か月、9か月、12か月、rTMS終了時を観察・評価
研究デザインは、多施設、前向き、非無作為化縦断研究。対照は、維持rTMS療法なし群とし、維持rTMS療法あり群の有効性を検証する。維持rTMS療法あり・なしの割り付けは行わない。予定する研究対象者数は、計300人(維持rTMS療法あり群150人、維持rTMS療法なし群150人)。rTMSには、NeuroStar TMS治療装置(Neuronetics,US)を使用。急性期rTMS療法によって、反応あるいは寛解した患者を対象に、維持療法期の前半6か月は週1日のrTMS療法を行い、後半6か月は隔週1日のrTMS療法を行う。刺激部位、刺激強度、刺激頻度、刺激回数などの刺激条件は、急性期のものと同一とし、左前頭前野、120%MT、10Hz、3,000pulsesであり、日本精神神経学会のrTMS適正使用指針に準拠する。維持期3か月、6か月、9か月、12か月および最終追跡調査時(rTMS終了時)を観察・評価時期とする。
先進医療にかかる費用は、維持rTMS療法が1回1万7,000円。また、診察料や処方せん料に加えて検査などは通常の保険診療となり、費用負担が生じる。なお、研究の実施期間は2022年5月1日から4年間(対象者登録期間:2024年10月31日まで)としている。
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