脳内ヒスタミンは覚醒状態の維持や、認知機能に関わると考えられている
名古屋市立大学は5月12日、脳内のヒスタミン量を増やす薬によって、脳活動が調節される仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科脳神経科学研究所の野村洋寄附講座教授ら、北海道大学大学院薬学研究院の南雅文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
アレルギー関連物質として働くヒスタミンは、脳内にも存在し、神経細胞が情報をやり取りするために使われる。そして、脳内のヒスタミンは覚醒状態の維持や、認知機能に関わると考えられている。例えば、ヒスタミンの働きを抑える抗ヒスタミン薬はアレルギーの治療に用いられるが、脳内に移行すると眠気を引き起こしたり、記憶成績を低下させたりする。
ヒスタミンH3受容体拮抗薬ピトリサントをマウスに投与し、神経活動の変化を解析
同研究グループは、これまでの研究で、脳内のヒスタミン量を増やす薬によって、忘れてしまった記憶が思い出せるようになることを明らかにしてきた。そのため、こうした薬はアルツハイマー病などの認知機能障害の治療薬になりうると考えられるが、実際に脳の活動をどのように調節するのかはわかっていなかった。
今回の研究では、カルシウムイメージングを用いて、マウスの嗅周皮質に含まれる数十個の神経細胞の活動を、同時に、リアルタイムに観察することに成功。そして、脳内のヒスタミン量を増やす薬物であるヒスタミンH3受容体拮抗薬ピトリサントをマウスに投与し、神経活動の変化を解析した。ピトリサントは、米国、欧州において、過眠症の1つであるナルコレプシー治療薬として使われている。
ピトリサント、一部の神経細胞の同期活動を高め記憶・学習を促進する可能性
解析の結果、ピトリサントの投与は嗅周皮質の神経活動全体には影響を与えなかった。しかし、1つ1つの神経細胞を区別してみると、ピトリサントは一部の神経細胞の活動を大きく上昇させる一方、別の一部の神経細胞の活動を大きく減少させていた。
さらに、活動が上昇した細胞は、他の細胞たちと同期して活動しやすいことが判明。神経細胞の同期活動は、脳内の情報伝播や記憶に重要であることがわかっている。ピトリサントは脳内のヒスタミンを増やし、一部の神経細胞の同期活動を高めることで、記憶・学習を促進する可能性が考えられた。
認知機能障害や睡眠障害の治療薬開発に期待
脳内のヒスタミンの働きを弱める薬は眠気を引き起こし、記憶成績を低下させる一方、脳内のヒスタミンの働きを強める薬は記憶・学習を促進する可能性が提唱されている。そのため、同研究のように脳内のヒスタミンの働きを明らかにすることは、薬の副作用のメカニズム解明やアルツハイマー病など認知機能障害の治療薬開発に結びつくという。
今後、今回の研究で発見された一部の神経細胞の同期活動を選択的に操作することで、同期活動と記憶・学習の促進との関連が明らかになると期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・名古屋市立大学 プレスリリース