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プライマリ・ケアの質を患者視点で評価する尺度「PCPCM」日本版を開発-横浜市大

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2022年05月12日 AM11:00

重要な11項目を11の質問で測定できる米国発のPCPCM

横浜市立大学は5月11日、プライマリ・ケアの質評価尺度「」(Person-Centered Primary Care Measure;)の日本版を開発したと発表した。この研究は、同大大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子惇講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Primary Care」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

プライマリ・ケアは医療資源の有効利用や健康格差の是正の役割を果たしており、各国の医療システムの中で重要な位置を占めている。しかし、プライマリ・ケアが扱う領域は病気に至る前の状態での健康相談、予防医療、患者個人だけでなくその家族や地域を対象とした健康に関する活動など幅が広いため、その全てを評価しようとすると項目が多くなってしまい、実用的でなくなってしまうという問題があった。

プライマリ・ケアの質をどの様に評価するかが全世界的に課題となっている中、米国の研究者らが患者、医療者、政策決定者らと「患者中心のプライマリ・ケア評価尺度」(PCPCM)を開発した。このPCPCMはプライマリ・ケアにとって重要とされるケアへのアクセス、ケアの包括性、ケアの統合、ケアの調整、医療者と患者の関係性、ケアの継続性、アドボカシー、家族状況を考慮したケア、地域状況を考慮したケア、目標志向のケア、健康増進の11項目を11の質問で測定できることが特徴となっている。日本でもこれまで別のプライマリ・ケア質評価尺度が作成され用いられていた。しかし、研究グループは、より少ない項目でより多くのプライマリ・ケアの要素を測定できるPCPCM日本版の作成には意義があると考えた。

横浜市住民を対象に調査、継続性、家族や地域の状況を考慮したケアの得点が低い傾向

研究では、横浜市に在住の20~74歳の1,000人を無作為に抽出し、郵送で質問紙を送り回答してもらった。41.7%から回答があり、PCPCMの平均点は2.59点だった(4点満点)。この得点を元にOECD加盟35か国を対象として行われた先行研究と比較すると、35か国中28位だった。現在の日本のプライマリ・ケアの質を表す目安の一つとなると考えられる。

また、項目別の得点(それぞれ4点満点)では、ケアへのアクセス(2.98)、ケアの包括性(2.98)、ケアの統合(2.66)、ケアの調整(2.56)、医療者と患者の関係性(3.16)、ケアの継続性(2.14)、アドボカシー(2.48)、家族状況を考慮したケア(2.18)、地域状況を考慮したケア(2.12)、目標志向のケア(2.57)、健康増進(2.68)であり、ケアの継続性、家族や地域の状況を考慮したケアの得点が低い傾向にあった。これは日本のプライマリ・ケアの特徴と考えられると同時に、米国でも同様の傾向が見られており、他国でも共通の課題である可能性があると考えられた。

PCPCM日本版、米国の原著者および同大ウェブサイトに掲載

研究ではPCPCMの得点および同時に調査した他のプライマリ・ケア評価尺度の得点から、尺度としての信頼性・妥当性を算出しており、日本版として使用するのに十分であることを確認した。米国の原著者らが翻訳した日本語版も当初存在したが、日本語表現がわかりにくい部分があり、日本の患者にインタビューを行い、理解しやすさを確認した今回の研究のものが正式なPCPCM日本版として原著者らのウェブサイトに掲載されている。また、同大プライマリケア・リサーチユニットのウェブサイトでも日本版使用マニュアルを配布している。

「PCPCMは比較的新しい評価尺度であるが、今後世界中でプライマリ・ケアの質評価に用いられる可能性が高く、他国と比較した時の日本のプライマリ・ケアの特徴を記述する国際共同研究につなげていきたい。また、少ない質問項目で多くの領域を評価できるので、国内の地域ごとの比較や日常診療の中での質改善にも有用と考えている」と、研究グループは述べている。

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