日本と欧米諸国の間では栄養に関する懸念事項が異なることが示唆されていた
東京大学は5月11日、日本人成人2,231人を対象に詳細な質問票調査を実施し、食品選択における価値基準、栄養知識、料理技術、食全般に関わる技能には、男女間、世代間で大きな差があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎助教、佐々木敏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」オンライン版に掲載されている。
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世界的な推定によると、食事は年間1100万人の死亡(総数の22%)の原因となっている。このため、食事の質の向上は、現在、世界的な優先事項だ。より健康的な食事を実現するために、世界各国は「何をどれだけ食べたらよいか」に関するガイドラインを定めている。しかし、食事摂取に関連する個人の特性は複雑で多様であるため、「画一的な」食事ガイドラインだけでは、より健康的な食事を実現するのは難しいことがわかってきている。そのため、食品の選択と食行動を形成する要因を調査し理解することが、より重要になってきている。このような流れの中で、食品選択における価値基準、すなわち、個人がどの食品を購入・摂取するかを決定する際に考慮する要因、に注目が集まっている。
また、最近になって提唱された概念として、フードリテラシーがある。フードリテラシーは、単に栄養の知識だけでなく、食べ物がどこから来るのかを知ることから、これらの食べ物を選択し調理する能力、食事ガイドラインを満たすように行動する能力まで、スキルや行動も含まれる。今回の研究ではフードリテラシーを、食に関する知識、料理技術、食全般に関わる技能(食事の計画と準備、買い物、予算の立て方、ラベルの読み方に関わる技能)で構成されるものと考えた。
食品選択における価値基準とフードリテラシーの測定と調査は、その多くが欧米諸国で行なわれており、日本では科学的成果がほとんどないのが現状だ。日本人の食事は健康的であると広く認識されているが、最近の詳細な解析によると、日本人成人の全体的な食事の質は最適とは程遠く、日本と欧米諸国の間では栄養に関する懸念事項が異なることが示唆されている。有効な食事ガイドラインや公衆衛生政策を策定し、健康的な食事を促進するための効果的な介入戦略を開発するためには、一般集団を対象とした包括的な報告が不可欠だ。
2,231人の全国調査データより、食品選択における価値基準などについて性・年齢との関連を調査
そこで今回の研究では、全国調査データを用いて、食品選択における価値基準、栄養知識、料理技術、食全般に関わる技能について、性および年齢との関連を調べた。同研究は、2018年10月~12月にかけて実施した全国規模の質問票調査で得られたデータをもとにしている。対象者は、全国規模の詳細な食事調査に参加した成人で、日本国内の一般家庭で生活する健康な日本人。対象として除外されたのは、管理栄養士、管理栄養士と同居している人、研究栄養士と共同研究している人、医師や管理栄養士からの食事指導の経験がある人、糖尿病でインスリン治療を受けている人、透析を受けている人、妊娠・授乳中の女性。
調査地域は、地理的な多様性と調査の実施可能性から、日本の総人口の85%以上を占める32都道府県とした。475人の管理栄養士が参加者の募集とデータ収集を担った。全国規模の食事調査の成人参加者2,983人のうち、2,248人がこの研究に参加(参加率75%)。解析には、データに欠損がある者(5人)、19~80歳の年齢範囲外の者(12人)を除外したのち、19~80歳の2,231人のデータを用いた。データ収集は有用性が確立している質問票を用いて行ない、食品選択における価値基準(入手しやすさ、便利さ、健康、伝統、感覚的魅力、オーガニック、快適さ、安全性)、栄養に関する知識、料理技術、食全般に関わる技能を測定した。
食品選択での価値基準など、男女間・世代間で差
調査の結果、女性は男性よりも、食品選択におけるすべての価値基準に重きを置いていることが判明。また、女性は男性よりも、栄養に関する知識、料理技術、食全般に関わる技能のすべてが高くなった。
年齢に関しては、高齢の参加者(60~80歳)は、食品選択に際して「長期志向型」の価値基準(オーガニック、安全性)を重視する一方で、若年(19~39歳)および中年(40~59歳)の参加者は「短期志向型」の価値基準(入手しやすさ、便利さ、感覚的魅力、快適さ)を重視していたという。
さらに、男性では年齢が高いほど料理技術と食全般に関わる技能が低い一方で、女性では年齢が高いほど料理技術と食全般に関わる技能が高いという、男女で逆の関連が見られた。
より代表性の高いデータを用いた、さらなる研究が必要
同研究では、一般日本人成人において、食に関する価値観、知識、技術を包括的に記述したうえで、性別・年齢との関連が明らかになった。日本人におけるこの種の基礎的報告は、これが初めてであり、健康的な食事を目指した効果的な政策、教育・介入プログラムやキャンペーンの科学的な基盤となるとことが期待されるという。
一方、今回の対象者は、日本人の代表的な集団ではなく、健康に対する意識が高い集団に偏っていると考えられるため、より代表性の高いデータを用いたさらなる研究が必要だ。また、食に関する価値観、知識、技術が食品および栄養摂取、食事の栄養学的質にどのように関連しているのかについての詳細な検討も必要だ、と研究グループは述べている。