病態解明を目指し、詳細な臨床情報に基づいた解析を加え検証
京都大学は5月10日、「再発性多発軟骨炎」に「バセドウ病」を合併する特徴的な臨床徴候を持つ患者が高頻度で存在することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 内科学講座臨床免疫学医学研究科の中島俊樹医員(研究当時)、吉藤元講師、静岡県立総合病院の寺尾知可史部長、聖マリアンナ医科大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「Orphanet Journal of Rare Diseases」オンライン版に掲載されている。
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再発性多発軟骨炎は、内耳・外耳、関節、大血管などの軟骨に繰り返し炎症を来し、時に軟骨破壊を起こすまれな炎症性疾患で、その原因はまだ明らかになっていない。関節リウマチ、ベーチェット病、血管炎などの自己免疫性疾患を合併することがあるため、再発性多発軟骨炎も自己免疫性疾患であると考えられている。しかし、これまでこれらの自己免疫性疾患合併に関する疫学的・遺伝的研究は行われていなかった。
研究グループは、日常診療において再発性多発軟骨炎の患者の中に「自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病および橋本病)」を合併している場合が多いことを観察していた。しかし、これまで再発性多発軟骨炎患者における自己免疫性甲状腺疾患の合併に関する報告は少数規模の限られた観察研究があるだけで、統計学的解析は行われていなかったため、日常診療で観察された疑問に対する明確な情報は得られていなかった。
そこで今回、多数の患者における詳細な臨床情報に基づいた統計学的解析を加えた検証を行うことで、上述の疑問に対する回答を模索するとともに、再発性多発軟骨炎の病態解明に迫ることを目指した。
117人の患者の年齢、性別、罹患臓器、合併症などの臨床情報を匿名化して抽出
研究グループは、書面による同意が得られた京都大学医学部附属病院および聖マリアンナ医科大学病院通院患者、再発性多発軟骨炎患者会会員の計124人のうち、自己免疫性甲状腺疾患の臨床情報のない7人を除いた117人を研究の対象とした。年齢、性別、罹患臓器、合併症などの臨床情報を匿名化した上で、カルテから抽出。そのうち、末梢血あるいは頬部粘膜検体の得られた93人については、ヒト白血球抗原(HLA)の遺伝子型の遺伝子タイピングを行った。
解析にあたり、日本人集団における自己免疫性甲状腺疾患の大規模調査は行われていなかったため、研究遂行時点で最大規模だった赤水らの研究データ(2001年に京都大学の赤水尚史らによって発表された、日本人集団2,367人を対象に行われたバセドウ病の疫学研究)と久山町研究のデータ(1987年に九州大学の岡村建らによって発表された、福岡県久山町住民1,254人における甲状腺疾患の疫学研究)を、一般人口における頻度情報として使用した。
バセドウ病の合併は高頻度で鼻病変の頻度「高」、橋本病は有意差見られず
臨床症状に関する解析の結果、対象患者117人のうち、5人(4.3%)がバセドウ病を合併しており、これは赤水らが報告した日本人一般人口における頻度(0.11%)と比較して有意に高頻度だった(p値 2.4×10-7)。これら5人の患者のうち、2人は再発性多発軟骨炎を先行して発症し、3人はバセドウ病を先行して発症していた。一方、6人(5.1%)で橋本病の合併を認めたが、これは久山町研究における頻度(4.6%)と有意な差はなかったという。
また、バセドウ病合併再発性多発軟骨炎患者5人では鼻病変(鼻軟骨の炎症)が見られ、バセドウ病非合併患者と比べて有意に高頻度だった(100% vs 45.5%、オッズ比 2.58、p値 0.023)。そのため、再発性多発軟骨炎におけるバセドウ病の合併予測因子として鼻病変が有用である可能性、あるいは両疾患における共通の病態機構の存在が示唆された。
HLAアレルが再発性多発軟骨炎におけるバセドウ病の合併に関連している可能性
さらに、93人のHLAの遺伝子タイピングから、HLAアレルの一種であるHLA-DPB1*02:02が、バセドウ病合併再発性多発軟骨炎患者において非合併患者と比べて高頻度に認められることがわかった(20% vs 2.3%、オッズ比10.41、p値 0.035)。
一方、橋本病合併再発性多発軟骨炎患者については、合併患者と非合併患者とでHLAアレルの頻度に差が見られなかった。既報の再発性多発軟骨炎あるいはバセドウ病関連HLAアレルとバセドウ病合併再発性多発軟骨炎との関連は、同研究において認められなかったという。したがって、各疾患関連HLAアレルと独立したHLAアレルが再発性多発軟骨炎におけるバセドウ病の合併に関連している可能性が示された。
バセドウ病合併再発性多発軟骨炎患者の合併症管理向上や病態解明への貢献に期待
今回の研究では、再発性多発軟骨炎患者の日常診療において観察された自己免疫性甲状腺疾患との合併頻度について統計学的手法を用いて検討が行われ、バセドウ病の合併頻度が高いことが初めて見出された。また、バセドウ病の合併患者では鼻病変の頻度が有意に高く、HLA-DPB1*02:02保有者の頻度が高いことが見出され、バセドウ病の合併再発性多発軟骨炎患者を臨床的に特徴付けることができたとしている。
「今後、より多くの症例の蓄積やより多くの患者における解析によって、バセドウ病合併再発性多発軟骨炎患者における合併症管理の向上および再発性多発軟骨炎の病態解明に貢献することが期待できる」と、研究グループは述べている。
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