ヒトの生物時計に対する食事スケジュールの影響は不明だった
北海道大学は5月9日、時間隔離実験により、食事時刻が睡眠覚醒リズムを調節していることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院教育学研究院の山仲勇二郎准教授と本間研一同大名誉教授の研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
ヒトを含め、多くの動植物がもつ生物時計は独自のリズム周期をもち、朝方の太陽光により24時間周期の昼夜変化に同調している。しかし、光を全く感受することができない視覚障害者のおよそ半数が正常な24時間リズムを示すことから、光以外の社会的因子が生物時計を調節していると推測されているが、その全貌は明らかになっていない。
ヒトの生物時計の構造と機能を解析するためには、時間隔離実験室と呼ばれる特殊な生活空間を用いて、外界の昼夜変化、温度、騒音といった時刻情報を取り除いた恒常環境下で、行動(睡眠覚醒)と生物時計が発振する深部体温、メラトニン、コルチゾルといったホルモンのリズムを計測することが必要だ。このような実験は1960年代より本格的に開始された。そして、恒常環境で長期間生活すると睡眠覚醒リズムと概日リズムが異なる周期を示す現象が観察される。これを内的脱同調というが、この現象は睡眠覚醒リズムと概日リズムが、異なる振動体により駆動されていることを示唆している。
研究グループはこれまで、日本で唯一の時間隔離実験室を用いて、厳密な生活スケジュールや運動スケジュールは睡眠覚醒リズムを同調させる一方、概日リズムは同調させないことを報告してきた。これらの研究から、ヒトの生物時計は、睡眠覚醒リズムと概日リズムを発振する振動体の局在は異なることだけでなく、2つの振動体は光と社会的因子に対して異なる反応性を示すことを明らかにした。規則正しい食事スケジュールが生物時計に与える影響については、マウスやラットなどの夜行性げっ歯類を用いて研究されている。それによると、食事スケジュールは概日リズムへの同調作用は弱く、1日1食の制限給餌スケジュール下では、食事時刻の数時間前から活動量、体温、副腎皮質ホルモン濃度が上昇する予知行動が形成され、その発振中枢は生物時計中枢(視交叉上核)以外の脳部位に存在することが想定されている。一方、ヒトの生物時計に対する食事スケジュールの影響は長年不明だった。
時間隔離実験を実施し、睡眠覚醒リズムやエネルギー代謝に関わるホルモンを測定
研究グループは今回、若い成人男性を対象に、実験室内の照度を200ルクス以下に設定した時間隔離実験室で15日間生活する実験を行った。実験開始から2日間は1日3食を決まった時刻に取り、その後、食事回数を1日1回に変更し、決められた時刻に食べる制限食事条件群と、食事時刻を被験者自身で決める自由食事条件群の2つの条件群に分け、9日間1日1食スケジュールで生活してもらった。さらに、1日1回の食事スケジュール後に再び食事回数を1日3回に戻し、食事時刻は被験者自身が決定した。実験中は、生物時計の指標として、睡眠覚醒リズム、深部体温リズム、メラトニンリズムを測定した。
食事スケジュールが睡眠覚醒リズムの同調因子になることを発見
さらに、動物実験で報告されている予知行動が食事に関連するホルモンに見られるかを検討するため、コルチゾル、インスリン、グレリン、レプチンといったエネルギー代謝に関わるホルモンを測定した。
その結果、1日1回の食事時刻を固定した制限食事条件では、多くの被験者の睡眠覚醒リズムは24時間と区別できない周期を示し、位相後退が阻止されたが、1日1食でも自由食事条件では、ほとんどの被験者で睡眠覚醒リズムは24時間より長い周期を示した。
今回調べたホルモンでは食事時刻に対する予知行動は観察されず
一方、深部体温、メラトニン、コルチゾルリズムは1日1食スケジュールでは24時間より長い周期を示した。動物実験でみられる食事時刻に対する予知行動は、今回調べたホルモンでは観察されなかったという。
生体リズムの乱れが原因の睡眠障害や概日リズム障害を予防する行動指針の作成に期待
今回の研究成果は、長年不明だったヒトの生物時計に対する食事スケジュールの影響が明らかとなり、ヒトの生物時計の構造と機能の全容解明に寄与するもの。
「本研究の成果は生体リズムの乱れが原因となる睡眠障害や概日リズム障害を予防する行動指針の作成に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・北海道大学 プレスリリース