なぜ、かゆみは慢性化する?かゆみと掻破の悪循環の仕組みは?
九州大学は5月9日、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎モデルマウスを用いて、皮膚からのかゆみ信号を脳へ送る脊髄神経の活動が高まっていること、皮膚への引っかき刺激を抑えるとそれが起こらないことを見出したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院/高等研究院の津田誠主幹教授、薬学府の兼久賢章大学院生(当時)、岡山大学、米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
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かゆみは、通常、皮膚の異物(ダニなど)を引っかくことで除去するという自己防衛反応と考えられている。このようなかゆみは、数回引っかくと治まる。しかし、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などに伴う慢性的な強いかゆみは、何回も繰り返す、過剰な引っかき行動を起こす。それによって皮膚の炎症が悪化し、かゆみがさらに増すという悪循環に陥る。これは「かゆみと掻破の悪循環」と呼ばれ、かゆみを慢性化させる大きな原因のひとつと考えられている。
日本でのアトピー性皮膚炎の推定患者数は約51万人(2017年厚生労働省データ)で、抗ヒスタミン薬などかゆみを抑える一般的な医薬品では十分に効かない。かゆみがなぜ慢性化するのか、かゆみと掻破の悪循環がどのような仕組みで形成されるのか、それらのメカニズムはよくわかっていない。
アトピー性皮膚炎・接触皮膚炎モデルマウスで実験
かゆみの仕組みに関する基礎研究から、ヒトのからだには、かゆみの信号を皮膚から脳まで伝える神経路があることがわかってきた。
今回研究グループは、何回も繰り返し皮膚を引っかくアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎モデルマウスにおいて、皮膚からのかゆみ信号を脳へ送る脊髄神経の活動が高まっていること、マウスの爪を切り揃え皮膚への引っかき刺激を抑えるとそれが起こらないことを見出した。
引っかき<感覚神経でNPTX2増加<脊髄<かゆみ伝達神経に作用<さらにかゆみを生む
さらに、そのかゆみ伝達神経の活動の高まりには、かゆい皮膚を繰り返し引っかくことによって、皮膚と脊髄をつなぐ感覚神経で増えるタンパク質NPTX2(neuronal pentraxin 2)が原因であることを発見。このNPTX2は、感覚神経の中を通って脊髄へ運ばれ、かゆみ伝達神経に到達していた。また、NPTX2を無くしたマウスでは、脊髄のかゆみ信号伝達神経の活動の高まりとかゆみが共に抑制された。
すなわち、かゆい皮膚を何回も引っかくことにより、感覚神経でNPTX2が増加。それが神経の中を通って脊髄へ運ばれ、かゆみ伝達神経に作用してその神経活動が高まり、さらにかゆみを生むという仕組みが明らになった。
慢性的なかゆみに有効な治療薬開発に期待
かゆみの基礎研究から、かゆみ信号を皮膚から脳まで伝える仕組みが少しずつわかってきた。今回の研究から、長引くかゆみの原因のひとつとされる「かゆみと掻破の悪循環」に、神経で作られるNPTX2が重要な役割を担っていることが明らかになった。
今後、NPTX2が神経で増えるのを抑えるような化合物、あるいはNPTX2の作用を阻害するような化合物が見つかれば、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などで生じる慢性的なかゆみに有効な治療薬の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果