日本人の子どもの数と学歴・収入の関係を明らかにすべく、出生動向基本調査データを分析
東京大学は4月28日、子どもの数と学歴・収入の関係を明らかにするために行った、出生動向基本調査のデータ分析の結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科 国際保健学専攻 国際保健政策学分野のピーター上田客員研究員、坂元晴香特任研究員、野村周平特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Plos One」に掲載されている。
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2020年に出生した子どもの数はおよそ84万人と1899年の統計開始以降最低の数を記録した。少子化の進行が著しい日本においては、政府を中心にさまざまな対策が取られているが、合計特殊出生率は、近年1.3前後を推移しており、抜本的な解決には至っていない。
少子化の原因にはさまざまな可能性が指摘されている。例えば、先行研究からは、男性の収入や雇用形態が男性の未婚化につながることや(未婚化は結果的に少子化につながる)、日本の過酷な労働条件では、女性が出産後にも仕事を継続することが難しく、高学歴な女性ほど子どもを諦めている可能性があることも示唆されている。しかし、このような収入や学歴と子どもの数については、これまでのところ十分な研究が行われていない。
そこで研究グループは今回、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査を用いて、1943~1975年の間に生まれた人を対象に、日本人の子どもの数がどのように変化しているのか、また、子どもの数は収入や学歴によってどのように変わるのか、所得、教育、年齢を中心に分析した。なお、これらの分析は、40代の時点での子どもの数を用いて行った。
子どもを持たない人の数は、男女とも30年で3倍近く増加、子どもを持つ場合も一人っ子が増加
まず、男女が持つ子どもの数の変化を調べた。1943~1947年生まれと1971~1975年生まれを比較すると、男性では、子どもを持たない人の割合は14.3%から39.9%に増加。女性では、子どもを持たない人の割合は11.6%から27.6%に増加していた。
また、子どもを持っている人の場合、子どもを1人だけ持っている人の割合が増えた一方で、子どもを2人以上持っている人の割合は減少していた。
合計出生率は、男性では1943~1948年生まれは1.92(95%信頼区間(95% CI): 1.86–1.98)だったのが、1971~1975年生まれでは1.17(95% CI: 1.13-1.22)に減少。女性では1.96(95%CI: 1.91-2.01)から1.42(95%CI: 1.37–1.46)へ減少していた。
男性では高学歴・高収入であるほど子どもを持つ割合「多」、暮らす自治体の人口も子どもの数に影響
次に、学歴・収入と子どもの数の関係を分析した。男性では、1943~1975のどの年代に生まれた人でも、収入が高いほど子どもを持たない人の割合は少なかった。また、合計出生率についても、高所得と低所得を比較した場合では高所得の方が高かった。例えば、1943~1947年生まれと1971~1975年生まれの間で子どもを持たない人の割合を比べた場合、最も所得が低い層(年収300万以下)では、この数字は25.7%から62.8%に増えており、合計出生率も1.74から0.73に減っていた。一方で、最も所得が高い層(年収600万以上)では、子どもを持たない人の割合は6.9%から20.0%に増えており、合計出生率は2.10から1.60に減っていた。
男性では、1943~1947年の間に生まれた人を除き、大卒以上の学歴の人ほど子どもを持っている傾向にあった。女性では、1956~1970年の間に生まれた人では、大卒はそれ以外の人と比べて子どもを持っている人の割合が少なく、合計出生率(Total Fertility)も低かった。しかし、1971年以降に生まれた場合は、大卒とそれ以外の人とでの差異は見られなかった。
1971~1975年生まれの子どもの数と社会経済的要因の関係を見てみると、男性では子どもの有無、および3人以上子どもがいるか否かは収入と関係しており、高収入の人ほど子どもを持っている割合が多く、また3人以上の子どもがいる割合も多かった。また、非正規雇用・パートタイムの人では、子どもを持っている人の割合および3人以上の子どもがいる割合ともに、正規雇用の人と比べて少なかった。女性では、正規雇用の人ではそれ以外の人と比べて子どもを持っている割合および3人以上子どもがいる割合は、ともに少なかった。
さらに、男女ともに、人口100万人以上の自治体に暮らす人は、人口非過密地域に暮らす人と比較して子どもを持っている割合および3人以上子どもがいる割合がともに少なかった。
男性では雇用の不安定化・低収入が異性との交際、婚姻、子どもの有無に影響を及ぼしている可能性
日本では深刻な少子化がいわれているが、今回の研究成果により、その原因は子どもを持たない人の割合の増加、および子どもを複数持つ人の割合が減っていることの双方があることが明らかになった。また、男性では高収入・高学歴であるほど、子どもを持っている人の割合および3人以上子どもがいる人の割合が多く、さらに1971~1975年生まれでは、学歴・収入に加えて雇用形態も、子どもの有無および子どもの数に関係していることが明らかになった。
先行研究から、男性の低学歴・低収入・非正規雇用/無職が、性交渉未経験、未婚、異性との交際経験が乏しいことに関係していることがわかっている。日本では95%以上の子どもが婚姻関係にある夫婦から生まれることからも、その前段階である異性との交際、性交渉、婚姻に続いて、子どもを持つことに対して男性の社会経済的環境の果たす役割の大きさが改めて認識された。近年の、特に若年層での雇用の不安定化が(そして結果として生じる低収入が)異性との交際、婚姻、そして子どもの有無に影響を及ぼしていると考えられる。加えて、子どもを育てるのにかかる費用が、特に世帯年収の低い夫婦に子どもを持つことをためらわせている可能性は、先行研究でも指摘されている。実際に今回の研究でも、収入が多いほど、子どもを3人以上持つ人の割合が増えていることが判明した。
女性で「高学歴の方が子どもを持つ割合が高くなるのか」について、さらなる研究が必要
女性の学歴と子どもの関係に関しては、これまでは高学歴の女性ほど子どもを持たない割合が高いとされていた。実際に欧米の先行研究でも同様の指摘があるが、こうしたギャップは近年では縮小傾向にある(高学歴女性とそれ以外の女性での子どもの数の差)。近年、スカンジナビア諸国を対象とした調査では、むしろ学歴が最も低い階層に属する女性の方が、40歳時点では子どもを持たない割合が高いことがわかっている。北欧諸国のように、女性が出産後も就労を継続できる環境にある場合には、女性が経済的に自立している方が家族形成にとって有利とする考え方があり、結果として学歴が高く、高収入となる女性の方が、より子どもを持つ可能性が指摘されている。
今回の結果からも、女性の学歴と子どもの数の間に見られたギャップが1971~1975年生まれでは消失していることが明らかになった。この傾向がさらに若い世代でも続くのか、さらに諸外国のように、高学歴女性の方が子どもを持つ割合が高くなるのかについては、さらなる研究が必要だ。「本研究では、大都市に住んでいる女性ほど子どもを持つ割合および3人以上子どもがいる割合が少なかったが、この傾向は他国からの報告とも一致する。これは、子どもがいない方が地方への移住が簡単であることや、大都市の住環境等が関係している可能性が考えられる」と、研究グループは述べている。