カテーテルアブレーション手術件数と患者転帰との関連、NDBを用いて解析
国立循環器病研究センターは5月2日、厚生労働省が保有するレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database:NDB)を用いて、心房細動患者における施設ごとのカテーテルアブレーション年間手術件数と合併症、遠隔期イベントの関連が、使用デバイスにより異なることを解明したと発表した。この研究は、同研究センターオープンイノベーションセンター情報利用促進部の金岡幸嗣朗上級研究員、岩永善高部長ら、奈良県立医科大学循環器内科学講座・公衆衛生学講座、大阪大学循環器内科学講座の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cardiovascular Electrophysiology」オンライン版に掲載されている。
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カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)は、心房細動に対する根治治療として、世界的にも急速に普及している治療法。近年では、従来の高周波アブレーションに加え、バルーンを用いたアブレーションなど、多様な手術デバイスが用いられている。これまでの報告では、アブレーション施行件数が少ない施設では、周術期の合併症が多いことが報告されていた。一方で、近年の現状を反映した、各々のアブレーション手術デバイスにおける、施設手術件数と患者予後との関連についての大規模な報告はなかった。
NDBには、患者の性別、年齢、病名、処置や投薬内容など、日本全体の入院・外来を含むほぼ全ての保険診療のレセプト情報が含まれている。研究グループは厚生労働省からNDBの提供を受け、奈良医大グループがこれを正規化して分析可能なデータベースを作成。今回の研究では、2014~2019年度に心房細動に対する初回のカテーテルアブレーションを受けた患者を対象に、心タンポナーデ・輸血を必要とする出血などの周術期合併症を主要エンドポイント、再アブレーション治療もしくはアブレーションから1年後の抗不整脈薬内服を副次エンドポイントに設定。交絡因子を調整し、手術件数と各イベントとの関連について解析した。
手術件数の影響、高周波アブレーションでは認められたが、クライオバルーンアブレーションでは明らかではない
今回の研究では、心房細動に対する初回のカテーテルアブレーションを受けた27万116人を解析対象とした。60歳代の患者が9万2,514人(34%)、女性が8万1,218人(30%)。アブレーション方法の内訳は、20万7,839人(77%)が高周波アブレーション、5万6,648人(21%)がクライオバルーンアブレーション、その他のバルーンを用いたアブレーションは実施施設が少なく、合わせても5,629人(2%)だった。
主要エンドポイントは5,411人(2.0%)に、副次エンドポイントは7万1,511人(27%)に発生。高周波アブレーション群では、年間手術件数が150~200例以下では手術件数が多くなるほど各エンドポイント(周術期合併症、再アブレーション治療もしくはアブレーションから1年後の抗不整脈薬内服)は減少する傾向にあり、それ以上では横ばいだった。一方で、クライオバルーンアブレーション群では、各エンドポイントと年間手術件数との明らかな関連は認めなかった。
今回の研究成果より、手術件数がカテーテルアブレーションのアウトカムに及ぼす影響は、従来の報告どおり、高周波アブレーションでは認められたが、クライオバルーンアブレーションでは明らかではなかった。
バルーンアブレーション、比較的施設の手術件数に依存しない手技として有用な可能性
手術法の選択は各々の症例に応じてされるべきだが、バルーンアブレーションは、比較的施設の手術件数に依存しない手技として有用であり、手術件数が少ない病院やハイリスク例などへの適応の効果をさらに検証していくことが必要と考えられる、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース