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慢性痛が不安を引き起こす脳内神経回路の機能変化をモデルマウスで解明-北大

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2022年05月02日 AM11:00

慢性痛が持続的な不安を引き起こす脳内メカニズムは不明だった

北海道大学は4月28日、慢性痛が不安を引き起こす脳内メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の南雅文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトは痛みにより嫌悪・不安・恐怖・抑うつを感じることで、体の危険に気付き、薬を服用したり病院に行ったりする。動物も痛みを感じることで危険を回避できる。例えば、けがにより運動能力が低下しているときなどは、痛みの神経回路を介して不安水準を引き上げ、より慎重に行動することで危険を回避できる可能性が高まる。このように、痛みは体の危険を教えてくれる警告信号として、重要な役割を果たしている。しかし、慢性痛では、警告信号の役割を果たした後でも痛みが続き、生活の質(QOL)を大きく損なうだけでなく、不安障害やうつ病などの精神疾患の引き金ともなる。

慢性痛と不安障害・うつ病の併発率は高いことが報告されており、慢性痛による持続的な不安・抑うつの亢進と不安障害・うつ病などの精神疾患との間には、共通の脳内メカニズムがあることが推測される。しかし、慢性痛が持続的な不安を引き起こす脳内メカニズムについては、よくわかっていなかった。

一方、「」と呼ばれる脳部位から「視床下部外側野」と呼ばれる脳部位に情報を伝える神経が、不安水準の調節に関与していることが報告されていた。そこで研究グループは今回、「慢性痛によって、分界条床核から視床下部外側野に情報を伝える神経の働きが変化することで、持続的な不安が引き起こされる」という仮説を立て、検証を行った。

神経活動操作により、神経障害性疼痛モデルマウスの不安症状減弱に成功

研究では、分界条床核から視床下部外側野に情報を伝える神経の働きが、慢性痛によってどのような影響を受けるかを調べた。マウスの坐骨神経を部分的に糸で縛り、切断することにより、神経障害性疼痛モデルマウスを作製。4週間にわたる慢性痛を誘導した後、単一の神経細胞の活動状態を計測できる電気生理学的手法を用いて、視床下部外側野に情報を伝える分界条床核神経の活動状態を解析した。

その結果、該当の分界条床核神経は、慢性痛時に持続的に抑制されていることが判明。ケモジェネティクスと呼ばれる先端的な神経活動操作法を用いて、視床下部外側野に情報を伝える分界条床核神経を人為的に活性化することで、慢性痛により亢進した不安が軽減された。一方、ケモジェネティクスにより該当する分界条床核神経を抑制することで、慢性痛を与えていないマウスの不安水準が亢進した。これらの結果は、当初の仮説を支持する研究成果と言える。

モデルマウスの分界条床核神経を持続的に抑制することで不安が亢進

次に、慢性痛時に視床下部外側野に情報を伝える分界条床核神経が持続的に抑制される神経機構を明らかにするため、上流にある神経細胞での変化を検討した。遺伝子改変動物とオプトジェネティクスと呼ばれる先端的神経活動操作法を用い、マーカーとして「Cocaine- and Amphetamine- Regulated Transcript(CART)」と呼ばれる神経ペプチドを産生する分界条床核神経細胞を人為的に活性化させた。すると、該当の分界条床核神経への抑制性入力が増加したことから、CARTを産生する分界条床核神経細胞が、該当の分界条床核神経の上流に位置している抑制性神経であることが明らかになった。

慢性痛時におけるCART産生神経細胞の活動を電気生理学的手法により検討したところ、健常マウスと比較して、神経活動が亢進していた。さらに、ケモジェネティクスを用いてCART産生神経細胞の活動を抑制することにより、慢性痛の影響を受け亢進した不安が軽減された。

これらの結果から、慢性痛モデルマウスでは分界条床核内のCART産生神経細胞の活動が亢進し、視床下部外側野に情報を伝える分界条床核神経を持続的に抑制することにより、不安が亢進していることが明らかになった。

慢性痛や慢性ストレスによる不安障害の新規治療薬開発への貢献に期待

慢性痛が不安を引き起こす脳内神経回路の機能変化を明らかにした本研究成果は、慢性痛の治療だけでなく、慢性ストレスなどで引き起こされる不安障害やうつ病などの精神疾患の治療にも役立つ新しい治療薬の開発や、脳内神経回路をターゲットとしたニューロモデュレーションなどの治療法の開発に貢献することが期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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