内頸動脈の屈曲蛇行は、機械的血栓回収術の結果に影響を及ぼすのか?
国立循環器病研究センター(国循)は4月26日、国循単施設での急性期脳梗塞に対する血管内治療データベースを用いた調査を行い、内頸動脈の屈曲蛇行を認める患者において、カテーテル手技を用いた機械的血栓回収術を施行した場合、初回の血栓回収手技により血流の完全な再開通が得られる割合が低下し、術後頭蓋内出血合併率上昇などの影響が認められることを明らかにしたと発表した。この研究は、国循脳血管内科の髙下純平医師、豊田一則副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke誌」電子版に掲載されている。
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頭蓋内の比較的太い主幹動脈の閉塞に対して、機械的血栓回収術は標準治療として広く施行されている。機械的血栓回収術では、1回の血栓回収手技により脳血流の完全再潅流を得ることができると、速やかに血流の再灌流を達成できるほか、術後の頭蓋内出血合併を低率に抑えることができ、良好な転帰を得られることが知られている。
血管が高度に屈曲蛇行している場合は、この治療に使用する機器(ステント型回収機器、大口径の血栓吸引カテーテル)を血管閉塞部位まで誘導することが困難になるため、治療が非常に難しくなる。特に、頭蓋内血管の閉塞を治療する上で必ずカテーテルが通過しなければならない内頸動脈の屈曲蛇行は、機械的血栓回収術の結果に影響を及ぼすのではないかと仮定し、検証を行った。
1回の血栓回収手技による再灌流の達成率「低」、頭蓋内出血合併率「高」、日常生活動作自立達成割合は差なし
今回の解析では、2014年1月~2021年6月の間に同センターに入院し、機械的血栓回収術を施行された370例(年齢中央値78歳(四分位値、71~83歳)、女性167例(45%))を対象に、内頸動脈の屈曲蛇行を、内頸動脈の特定の部位(頭蓋外内頸動脈、海綿静脈洞部内頸動脈)で既存の分類に従って評価。対象症例を、内頸動脈に屈曲蛇行を認める症例と認めない症例の2群に分け、1回の血栓回収手技による完全再灌流達成率や術後の頭蓋内出血合併率を比較した。
対象症例のうち、124例(34%)に内頸動脈の高度の屈曲蛇行を認め、特に高齢者、女性に多く認められることがわかった。治療結果を見ると、内頸動脈の屈曲蛇行を有する症例では、1回の血栓回収手技による再灌流の達成率が低く、頭蓋内出血合併率が高いことが判明。最終的な有効再灌流の達成率、脳梗塞発症3か月後の日常生活動作自立を達成した症例の割合は、両群に差がなかったという。
屈曲蛇行例に少ない治療手技回数で完全再灌流を達成可能な治療機器・手技の進歩が必要
血管に高度の屈曲蛇行を有する症例では、ステント型回収機器による回収中にステントが牽引され、形状が扁平化することで脳梗塞の原因となっている血栓を捕捉する能力が低下することが知られている。また、大口径の吸引カテーテルは血管閉塞部位への誘導が困難となるほか、吸引カテーテルと血栓の軸のずれが生じることで血栓捕捉力が低下すると言われている。
今回の研究では、内頸動脈の屈曲蛇行を有する症例で、1回の血栓回収手技での完全再灌流の達成率が大幅に低くなり、上記の血栓回収機器の性能低下を反映した所見と考えられる。また、頻回に回収手技を実施することにより、術後の頭蓋内出血発症が増加している可能性がある。一方、複数回治療手技を行うことで、最終的な有効再灌流は、内頸動脈の屈曲蛇行を有する症例においても高い割合で達成されており、治療機器や手技の進歩が伺える。
「今後、内頸動脈に高度の屈曲蛇行を有する症例においても少ない治療手技回数で完全再灌流を達成可能な治療機器や手技の進歩が必要であると考える」と、述べている。国循では、このような急性期脳梗塞へのカテーテルを用いた治療を、脳内科・脳外科が連携した体制で行っており、今後もより良い治療法の開発を目指していくとしている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース