国内売上は2,890億円で前年比7.5%増
MSD代表取締役社長のカイル・タトル氏は2022年4月21日の会見で、2021年の全世界売上が約487億ドルで、前年比16%増(為替の影響除く)と成長していることを報告した。うち、医薬品売上は約428億ドル(前年比15%増、同)。国内業績も成長しており、売上高は約2,890億円で前年比7.5%増だった。その一方で、市場拡大再算定の「道連れ」ルール(競合薬の類似品として市場拡大再算定が適用される)を改めて問題視。免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」(一般名:ペムブロリズマブ〈遺伝子組換え〉)の薬価が大幅に引き下げられていることから、問題解決のために厚生労働省と話し合いを続けていくとした。
カイル・タトル氏(MSD提供)
全世界売上約487億ドルのうち、医薬品売上が約428億ドル、アニマルヘルス売上が約56億ドル(前年比16%増、同)だった。医薬品売上の成長要因についてタトル氏は、キイトルーダやHPVワクチン「ガーダシル」「シルガード9」、筋弛緩回復薬の「ブリディオン」(一般名:スガマデクスナトリウム)、新型コロナウイルス感染症治療薬「ラゲブリオ」(一般名:モルヌピラビル)が貢献したと説明した。
国内の売上高は、約2,890億円(前年比7.5%増)。ラゲブリオの売り上げが成長率の伸びに大きく貢献した。その一方で、ラゲブリオの影響を除くと前年比からの成長率は1.5%増にとどまった。タトル氏は、キイトルーダの売上数量は前年比で12%増加したが、2021年4月の薬価改定や同年8月の市場拡大再算定の「道連れルール」(競合薬の類似品として市場拡大再算定が適用される)によって売り上げが減少していると指摘。「堅調な売上数量の成長が、薬価改定により相殺された」と述べた。
キイトルーダをめぐっては、度重なる薬価引き下げにより、2017年の発売時に41万541円(100mg4mL1瓶)だった薬価が現在、21万4,498円にまで下落している。2022年度薬価制度改革では、道連れルールについて「4年を経過する日までの間は、1回に限り、他品目の市場拡大再算定の類似品としての引下げ対象から除外」すると見直しが図られた。
タトル氏は見直しについて一定の評価を示しつつ、「根本的な解決にはなっていない」と強調。類似品の薬価が対象品目の薬価よりすでに低い場合や、適応症の範囲の重なりが非常に小さい場合、売り上げが増加していない場合、道連れルールに適用されるのは不条理だとして、追加の対応を求め、厚生労働省と話し合いを続けていく構えをみせた。
タトル氏は、「会社として、日本に投資を続けるためには成長しなければならない。研究開発に投資をし、画期的な薬剤によって、国民に寄与したい」と述べた。
代表取締役上級副社長でグローバル研究開発本部長の白沢博満氏は、「薬価制度改革の影響がみえるのは5年、6年経過してからだ」と指摘。「マクロのレベルで日本から薬がなくなるということはないが、ミクロのレベルでは難しい意思決定が各社で始まってきている」として、海外に比べ日本で新薬の承認・販売が遅れるドラッグラグがみられ始めている状況に危機感を示した。
ラゲブリオ、家庭内感染予防のP3試験結果「近く発表」
白沢博満氏(MSD提供)
ラゲブリオについては、直近ではオミクロン株のBA.2系統が流行していることを踏まえ、白沢氏が「どのような変異が起きてもウイルス活性はこれまで変化してこなかった。今後も変化しないと考えている」と述べた。供給スケジュールは当初の想定から約4か月前倒しし、2022年6月中旬までに160万人分を供給する予定だという。また現在、家庭内感染予防の第3相試験MOVe-AHEADが、日本での症例登録も含めて進行しており、「近いうちに結果を発表できると期待している」とした。
HPVワクチン接種の積極的勧奨が小学校6年~高校1年相当の女性を対象に2022年4月、約9年ぶりに再開されたことについては、「嬉しく思っている」(白沢氏)と述べた。積極的勧奨再開に伴い、1997年~2005年生まれの女性にはあらためて接種の機会が設けられる(キャッチアップ接種)。キャッチアップ接種について白沢氏は、「キャッチアップの世代では性的なアクティビティが上がっていると考えられるため、とにかく早く打っていただきたい」と強調した。