静岡市で発生した3事例から、事案発生の背景と再発防止策について検討
国立感染症研究所は4月21日、「Kudoa iwataiが原因と疑われる有症事例の背景と啓発の必要性について」と題した報告を、病原微生物検出情報(IASR)の国内情報として公開した。この報告は、静岡市保健所食品衛生課の浅沼貴文氏、竹原裕代氏、柴田瑞葉氏、佐藤葉子氏、島村好彦氏、永井幹美氏、山本秀樹氏、静岡市環境保健研究所の髙橋直人氏、小野田早恵氏、鈴木史恵氏、金澤裕司氏、木下純氏、八木謙二氏によるものだ。
画像は感染研サイトより
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Kudoa iwatai(K. iwatai)は、寄生した魚の身に、目視できる大きさのシストを形成するクドア属の粘液胞子虫。今回の報告では、静岡市で発生した、当該寄生虫が原因と疑われる3件の有症事例から、事案発生の背景と再発防止策について検討が行われた。
寿司屋などで2016、2020、2021年に発生、共通の症状は下痢や吐き気
事例1は2016年12月に寿司屋で発生。スズキの寿司を喫食した16人(2グループ)のうち13人が発症した。事例2は2020年7月に創作料理レストランで発生。スズキのカルパッチョを喫食した15人(2グループ)のうち6人が発症した。事例3は2021年12月に和食料理屋で発生。サワラの寿司を喫食した29人(2グループ)のうち20人が発症した。
症状は、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、発熱(平均は事例1~3がそれぞれ38.0℃、37.3℃、37.2℃)、寒気、戦慄、頭痛、暖気、倦怠感、脱力感、裏急後重、臥床で、平均潜伏時間(幅)は事例1~3がそれぞれ9.1(3.0-17.3)、9.3(4.0-14.0)、8.3(3.0-21.0)だった。下痢が最も共通する症状だったが、吐き気も半数以上の患者にみられた。事例3は、症状が比較的重く、回復に数日を要した患者もおり、一過性とはいえなかった。
スズキの寿司/カルパッチョ、サワラの寿司、魚の身にシストを確認
事例1の原因食品は、「スズキの寿司」と推定された。従事者は、魚の仕込みの際に、身にシストがあることを認識していた。取り除いたと証言したが、残品をみると、直径1~2㎜の大小不同のシストが散在しており、完全に取り除けていなかった可能性がある。事例2は「スズキのカルパッチョ」、事例3は「サワラの寿司」が原因と考えられた。従事者らは、シストに気づいていなかった。事例2は残品がなかったが、患者が撮影した料理の写真を観察すると、魚の身にシスト様の斑点が確認できた。事例3の残品には、約1㎜のシストが確認できた。事例2、3も、シストを含む食品が提供されたと考えられた。
シストが見られた魚は、シストを含まない部位の身からも胞子を検出
いずれの事例でも、複数の患者便からK. iwataiの遺伝子が検出され、事例1、3のシストはK. iwataiであると同定された。シスト1個あたりの胞子数は、事例1は5.3×106個、事例3は6.1×105個だった。また、事例3で、シストを含まない部位の魚の身から平均3.1×105個/gの胞子が検出された。なお、遺伝子検査は、「患者便からのKudoa septempunctata遺伝子検出法」に準じたKudoa iwatai 18S rDNAを標的としたリアルタイムPCR法により実施し、顕微鏡検査は、「Kudoa septempunctataの検査法について」に準じて実施した。
「従事者がシストを見逃す」ことが有症事例の最大の要因
同市の事例は、有症事例の最大の要因が「従事者がシストを見逃す」ことであることを示唆する。事例1では、気づきながら提供を止めず、事例2、3では、魚の目利きが確かな経験豊富な従事者が、鮮度や身質に関しては十分に見ていながら、シストは見落としていた。同市が2021年2~6月に実施したアンケート調査では、魚介類販売業者34人のうち、「シストを見たことがある」と回答した者が19人(56%)であったが、「病原性を有する可能性」を知っていた者はわずか2人(6%)であった。このことから、K. iwataiが「危害要因として認識されていないこと」が、シストが見逃される背景にあることがうかがわれた。
寄生の程度によらずシストの見られた魚は廃棄が望ましい
K. iwataiの胞子の摂取量と発症との関係については科学的な知見が乏しいが、食中毒の病因物質として指定されているKudoa septempunctataの胞子の発症摂取量が107個)といわれており、1つの目安とすることができる。K. iwataiでは、胞子の大半はシストに含有されていることから、第一には、シストを喫食しないことが肝要。そして、寄生が軽度であれば、シストだけを取り除いて提供したくなるような場合もあると思われるが、シスト以外の身にも胞子が散在している可能性があり、生食用に供するのは避けたほうがよい。安全性の観点からは、寄生の程度にかかわらず廃棄により対応することが望ましく、少なくとも加熱または冷凍して提供するべきである。
病原性が疑われる他の近縁の寄生虫と異なり、目視できるシストを形成することがK. iwataiの最大の特徴。「シストをメルクマールとして食品事業者へ寄生された魚を「見逃さない」よう啓発し、再発防止に努めたい」として、同報告は締めくくられている。
▼関連リンク
・国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)